N-2ロケットの打ち上げ

ついにこの日がやってきた。開発したN-2ロケットの打ち上げ本番である。

飛行するN-2ロケット

準備は前日夜遅くまで続き、作業していた建物を出たときには時計は午後8時を回っていた。

今回はN-2ロケットとして3つのロケットを打ち上げた。それぞれTana, Galana, Perkerraという名前がついている。これらはケニアの川の名前から命名された。

Tanaロケット。リアクションホイールを搭載する。
Galanaロケット。地上からの司令でパラシュートを展開する(マニュアル・オーバーライド方式)。
Perkerraロケット。カナード(先尾翼)で姿勢を制御する。

今回の打ち上げの良かった点を以下に挙げる。

  • KSAと協力して3機のN-2ロケットを打ち上げることができた
  • 固体ロケットモータがうまく作動した。特に、現地で燃焼室の縁をハンマーで曲げるテクニックを現場で発見できたことは良かった。
  • テレメトリによりセンサデータとカメラ画像を地上局にダウンリンクできた
  • 現場にてESP32のリセット問題が発生したが、電装班によってトラブルシュートできた
  • 加工品(クリムゾンパウダー)が作動し、パラシュートが放出された
  • 打ち上げ手順を作成し、それに従って打ち上げを行った
  • Perkerraが安定して飛行し、最大高度を達成することができた
  • 機体はトラブルなく飛行することができた

一方で、改善点は以下である。

  • 組織的問題。開発スケジュールの遅れと各チームのタコツボ化による調整不足。
  • 前日にすべてを終わらせようとする開発マネジメントの弱さ
  • パラシュートが放出されたが展開されなかった問題。パラシュートの優先度を挙げて向き合う必要がある。
  • 機体のサブコンポーネントの完全な再設計。設計していない穴を最後に開けて調整するなどの即興ものづくりから脱却する。ローンチラグの場所を設計していなかったせいで、直前でカナードを破壊した問題。
  • フライトコンピュータに外部記憶装置を設置し、テレメトリ以外の方法でフライトログを取得する。
  • 発射台の改善。
打ち上げ後、今後の改善について議論したミーティング

来年の1月から始まるインターンでは、組織的な問題の改善を最重要に取り組んでいく。

23. 11月 2022
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ドローンによる通信試験

本日は電装班がドローンを用いてフライトコンピュータの試験を行った。1つ目の試験はステートマシンの動作確認である。N-2ロケットのフライトコンピュータは初期状態→上昇フェーズ→遠地点→降下フェーズ→着地という5つの状態を検出して遷移する仕組みになっている。まずはドローンを用いてこの機能が正常に動作するかを試す。

学内の貯水池の近くで試験を行う。直前までGIS学科の学生が貯水池の水深を計測する実習でドローンを使っていた。
ペイロードとしてアビオニクスベイを懸架する
ドローン上昇開始

ステートマシンの動作は無事に確認できた。次は遠距離の通信試験である。センサーとカメラの動画が問題なくWifi経由で送信されることを確認する。

Wifiアンテナをドローンに向けて通信する

N-2ロケットで想定している500mまでのセンサ値とカメラ動画の受信が確認でき、試験は成功だった。

18. 11月 2022
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N-2モータ(フルグレイン)の燃焼試験に初めて成功

打ち上げまであと一週間。今日はN-2モータのフルグレイン試験に初めて成功した。最終的にシングルグレインのモータに対して、ノズルと燃焼室をアルミから軟鋼に変更、スナップリングの溝を深くするという変更が施された。午後3時30分頃、いつも試験を行っているラグビー場に到着すると、新しい学生たちが見学に訪れていた。本日の試験体は先週金曜日に点火装置の不具合で試験を見送っていたN-2ロケットに搭載するフルグレインの固体モータである。繰り返しになるが、これまで試験に成功しているのは検証用として製造したN-2ロケットに必要な推力の半分のみを出力するテストモータであり、最終製品となるN-2モータ(=フルグレイン)の燃焼試験は、これまでに一度も成功していない。

以下が燃焼試験の動画。カウントダウン!10、9,8、7・・・で点火してしまっているが、以前のようにノズルやバルクヘッドが射出されることもなく、また燃焼室の側壁が溶けることもなく、燃焼が完了している。記念すべき初めてのN-2モータの燃焼試験の成功である!

N-2モータ初の燃焼試験に成功

以下の動画は燃焼部分を抜き出したもの。ノズルと燃焼室の隙間からガスが漏れていることがわかる。Oリングの動作不良が疑われたが、学生によれば、本日の燃焼試験の前に燃焼室の側壁が若干膨張していることが目視で確認できたらしい。加工時の負荷で変形したのか、あるいは過去の燃焼試験の加熱で変形したのかは現時点ではわからないが、次回の燃焼試験で検証することにした。また、熱流束が最大となるノズルと燃焼室の接続部分が赤熱している。こちらについても次回以降にサーモグラフィで測定することで、加熱による強度の低下を分析・評価することとした。

夜に学生から送られてきた推力曲線は以下である。ひとつ残念な知らせとして、ゼロ時刻でのオフセット値、170[N]が発生しているため、計測された推力の460Nに正当性が得られないことであった。こちらも次回の改善点である。

推力曲線

今回試験した固体モータは先週水曜日に製造したもののため、6日程度経過している。経験上、我々の固体モータの性能は製造後の時間経過に伴って劣化する。したがって今週金曜日に、製造直後(1日経過したもの)のモータを用いて燃焼試験を行うことにした。

燃焼後のモータ

16. 11月 2022
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産業界に教えを請う〜グラスファイバーの製造の改善

本日は2つのイベントが予定されていた。まずはN-2ロケットモータの燃焼試験である。前回の試験では圧力上昇に耐えきれずにノズルが飛び出してしまったため、溝の深さを大きくすることと、スナップリングを2重にする改良を施し、試験に臨んだ。

試験装置から距離をとるメンバーたち

結論から言うと本日の試験は見送りとなった。原因は点火装置に不具合があったためである。予備のイグナイターを準備していなかったため、次回の試験では今回のモータを含めて2つの試験を行うことになった。

午後はグラスファイバーの製造を仕事にしている方をJKUATに招いてグラスファイバーによる機体の製造を指導してもらった。彼はもともと車両関係の会社で働いていたそうで、グラスファイバーの製造はそこで学んだそうである。

自分たちが使っている道具を見せると、すぐに以下のアドバイスが飛んできた。

  1. Glass matではなくFiber cloth(外側の層に対して)あるいはTissue mat(内側の層に対して)を使うこと
  2. ローラーではなく2インチのペイントブラシを使うこと
  3. ポリエステル樹脂ではなくエポキシ樹脂を使うこと
  4. 型から外す際にはmirror graze polish (ワセリンのような粘性の高いもの) を使うこと
  5. ボディチューブの型にはPVC樹脂ではなくアルミを使うこと
  6. 最終層にはgelcoatを使うこと

これまで見よう見まねと試行錯誤でファイバーグラスの製造に取り組んでいた学生たちは、プロの意見に聞き入っていた。

製造指導を受ける学生たち。緊急時の対応のため、水を入れたバケツも必ず用意する。
まずはReleasing agentを型に塗る
硬化剤の配合はレイヤーによって変える。内側は硬化剤を少なめ(より硬化に時間がかかる)、最終層に近づくに従って硬化剤を多めにする(早く硬化する)。具体的には内側では樹脂350mlにキャップ1/4杯。最終層では樹脂350mlにキャップ1杯。
ブラシで押し付けて気泡を抜く。作業は素早く。
グラスマットはティッシュペーパーのように2枚重ねになっており、1枚ずつに分けることができる。今回のボディチューブの製造では、1層目は1枚分、2層目は2枚分(フル)、最終層の3層目は2枚分(フル)とした。

他にも今日はJLCPCBに発注していた基板が届くなど、全チームに進展があった日となった。

飛行制御班の基板
電装班の基板

11. 11月 2022
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物理学科のドローン機材の見学

ドローン研究グループ(ウェブサイト:Drone Research Group at JKUAT)のメンバーたちと物理学科の実験室を訪問してきた。ドローングループに参加している物理学科の学科長の提案で、物理学科が保有するドローン機材を見せてくれるとのことである。この機材はIEEEの一部会であるGRSS(Geoscience and Remote Sensing Society )から2021年にJKUATに寄贈されたものである。(参考記事:Varsity Receives Drones from American based Engineers’ Society to aid Research (jkuat.ac.ke)

なぜドローン機材が物理学科に提供されたのかについては、JKUATの物理学科のコース分けが関係している。

  1. Control and instrumentation
  2. Renewable energy
  3. Geophysics
  4. Physics

1のコースでは自作した電子回路による科学観測を研究で扱っており、従来は高高度気球やCansatを用いていた。新たにドローンを使うことでより観測の幅が広がるため、この学科への供与が適切と判断されたようである。

ちなみに1のControl and instrumentationは「計測と制御」というニュアンスだと思うが、初めに聞いたときはなぜ物理学科の下にこのコースがあるのかが疑問だった。科学観測のための電子回路を設計実装してデータを取得するという点では理学部に位置づけられていることは理解できるのだが、一方でただ単にPLC(Programmable Logic Controller)のシステムを実装している卒業課題もあるようなので、これはむしろ電子工学の分野なのではという印象も持っている。また、2のRenewable energyでは例えば風力発電のタービン周りの流体計算などに取り組んでいる。3は地熱発電のための重力探査などで、ケニアならではという印象も受ける(ケニアは国の電力の約半数を地熱発電でまかなっている)。

ドローングループに加えて物理学科から数名の大学院生も参加していた
ドローンに取り付けて気象観測などを行う基板
物理学科の教員による説明
使っているのは小型のドローン

11. 11月 2022
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