キンシャサにて

DRコンゴの首都、キンシャサのヌジリ空港に到着したときのこと。

飛行機のタラップを降りてバスでターミナルに到着すると、皆すぐにイミグレのカウンターに並ばされた。 噂では外国人は別室に連れて行かれて、法外な賄賂を請求されると聞いていたが、予想より小綺麗で明るく、風通しがいいカウンターだ。 さくさく列が進んでいて、外国人も問題なさそうにパスしている。 自分の番になっても、ホテルを聞かれただけで、スタンプはあっけなく押されてしまった。 空港の腐敗は改善されており、心配は杞憂だったのか。 そう思ったのは早かった。

イミグレカウンターを通過した先の検疫で、黄熱病接種証明書(イエローカード)を見せろと言われる。 他のアフリカの国々と同じように取り出して見せると、 係官A「ちぎれているからこれは無効だ」 そうきたか。確かに端が少し摩耗しているが、ちぎれているのではない。ガーナのコトカ空港で2年前に同じ手口でやられたときは出国させないと言われて20ドル払ってしまったが、流石に2度目である。これは有効な証明書だと説明する。 係官A「これはダメだ、別室に連れてけ」 別の係官Bが自分をイミグレのブースの方に引っ張っていく。どこに連れて行かれるんだろうと思っていたら、なんとスタッフルームだと思っていた扉が開いて、その中に入れられた。そんなイミグレのカウンターのすぐ横にお仕置き部屋があったのか。 戦いが始まることを悟り、気合を入れて部屋に入る。

係官B「20ドル払ったら解放してやる」 アクラでの一件の後、こんなこともあろうかと準備していたiPadを取り出し、イエローカードの見本写真を見せつける。 青木「これが見本だ、この通り、ちぎれてないだろう」 係官B(イエローカードのサンプル写真を見ながら)「サンプルの方は名前が伏せ字になっている。これはダメだ」 よくわからない言い訳を発明するもんだ。自分でも無理筋な難癖だって絶対思ってるはず。 係官B「10ドルでいいからさっさと払え」 青木「貴方の言ってることはわかるけど(本心では意味わかんないと思いつつ)、これは非常に難しい問題だ」 適当なことを言ってはぐらかし続けていると、 係官B「60ドル払いたいのか?今なら20ドルで良いって言ってるんだ。20ドル払うのか?60ドル払うのか?」 青木「(…どっちも払いたくない…)」 適当なことをふにゃふにゃ言って時間を稼いでいたら、別のアフリカ人が部屋に連れられてきた。彼もいちゃもんをつけられている。 そうこうしていると、アフリカ人の彼を連れてきた係官Cと今まで自分を尋問していた係官Bがバトンタッチした。次に来た係官Cは、最初のオフィサーにも増してチンピラみたいなやつだ。 係官C「ペナルティ払わなくて良いって言ってるんだから、とっとと金を払って出てけ」青木「払う理由がわかりません」 係官B「もういい、パスポートだせ」 自分の次に連れてこられたアフリカ人は、何かの書類に名前を記入されている。自分もその紙に何か名前を書かれるのだろうか。この紙はもしかすると入国拒否理由書かなんかじゃないのか?と思い、ここが潮時かと感じ始める。 係官C「ペナルティじゃなくて飲み物代でいいんだよ」 逃げるならここだと思い、すっと5ドルを出して彼に手渡した。すると、俺らは2人いるから10ドルだろと言ってきた。渡した5ドル札を取り返し、10ドル札を手渡した。

係官Cに、来い、と言われて部屋から解放され、再び検疫ブースに連れていかれた。 イエローカードを再び係官Aに見せる。 係官A「これはちぎれているから無効だ」 同じことを言う奴だ。 青木「(iPad上の見本画像を見せながら)これは端が摩耗してるだけなんです」 係官A「画像に印刷されていたスタンプが、お前のイエローカードには無い」 え?と思ったら、たしかにスタンプは印字されていない。 係官A「これはペナルティを支払う必要がある。部屋に行け」 またお仕置き部屋に戻された。往復することになるとは思ってもみなかった。 もしや、最初の部屋行きは、少額でもいいから金を払うかどうかを見るテストで、金を払う奴だというのを確かめてから、さらに時間をかけて高額をゆすり取るんじゃないか?と思った。 だとすると、もう自分はカモ決定なので、かなり不利な戦いだ。

再び部屋に入ると、3人の外国人(アフリカ人男女、インド人x1)がいた。 インド人は黄熱病ワクチン接種の10日以内に入国したそうで、これは普通にペナルティらしい。70ドル払って領収書ももらっていた(!)。

係官C「さっきの10ドルはお前に返す。お前はペナルティを払う必要がある」 ペナルティは70ドルか、、、と思いつつ、再びバトルを開始する。 さっき指摘されたときには気づかなかったが、サンプルでは黒インクで印字されているスタンプは、自分のイエローカード上ではエンボス加工になっていることに気づいた。 青木「サンプルでは黒インクになっているが、ここに凹凸で刻まれているのがスタンプだ」 係官C「サンプルと違うんだから、この証明書は無効だ。ペナルティを払ってもらう」 青木「でも、、、」 係官A「(別のアフリカ人に対して怒鳴る。)」 部屋がしーんとなり、さっきまで威勢良く反論していたアフリカ人がしゅんとなっている。 どうやら係官Aが一番偉く、彼に逆らうとヤバイことになるようだ。 係官Aはさっきペナルティだって言ってたから、60ドルか、70ドルか、果ては100ドル払わないといけないかもしれないなあ。万事休す。

そう思っていると、何か横の会話がおかしいことに気づいた。

係官C「だからスタンプがないんだよ」 係官B「スタンプはここに刻印してあるだろ」 係官C「この画像じゃ黒字になってる」 係官B「このエンボス加工のがそれのことなんだよ。スタンプは問題ない」 係官B「問題なのは端がちぎれてることなの」 係官C「いや、そうじゃないだろ」

なんか・・・・・・・・仲間割れしてる??

すると、大ボスたる係官Aが口を挟んできた。 係官A「問題あるのか無いのか。あるならペナルティを払わせろ。無いならとっとと出ろ。」 風向きが変わってきた。もしかすると、彼らをこのまま自滅させられる可能性がある。 係官A「言っただろ。とっとと出てけ」 ロジックとしては、Aがスタンプの瑕疵を指摘し、Cがそれを引き継いで糾弾し、何故かBがCを反駁した格好で、自分の潔白が証明された。

しかし、CとBもみすみす獲物を逃す訳にはいかない。 係官C「さっきの10ドルよこせ」 青木「でも・・・、払う理由がわかりません」 係官B「良いから払え。払ったら出してやるって言ってるだろ」 青木「でも・・・、払う理由がわかりません(本日◯度目)」 係官A「いいから来い」

係官Aに部屋から出されて検疫ブースに連れて行かれると、普通に解放された。

到着直後の30分は、こうして過ぎていった。

19. 2月 2017
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