技官研修1日目
研修初日はハンズオンの研修(実際に手を動かす実習)はなく、講師および参加者の簡単な自己紹介と、グループワークを行った。
ディスカッションを軸とした研修を最初に導入した理由は、iPICスタッフのDr. KihatoおよびC/PのMr. Omondiのリクエストによる。Kihato氏からのリクエストは、「技術の指導だけでなく、日本の支援という利点を活かし、ものづくりの心をいかにAfrican innovationに活用するかを議論して欲しい」というものであった。Kihato氏とさらなる議論を行ったところ、「もの」ではなく「こと」に焦点を当てることの必要性、という視点も新たに明らかになった。Kihato氏は、日本の経済発展というのは、そのような「こと」に焦点を当てたことも背景にあるのではないか、という。確かに日本の製造業を発展させた背景には、一見製造それ自体と無関係に思える部分(整理や整頓と言った、製造に取り組む姿勢や、「車ではなく、ひとをつくる」というトヨタの思想など)も関係があるかもしれないと納得した。結局彼の真意を推し量れば、単一の技術シーズを基軸にイノベーションを捉えるのではなく、このケニアという土地が抱える問題を解決することに焦点をおき、そもそもどのようなことが求められているのか、広い視点に立って議論を行い、そこで技術が果たせる役割は何であるのか、包括的に考えることの必要性をスタッフにも知ってほしいということであったと考えられる。このアドバイスを基に、グループディスカッションのテーマを設定し、議論を行った。
本グループディスカッションでは、アフリカンイノベーションに関する議論を行った。まず参加者に問うたのは、既存のアフリカンイノベーションの事例はどのようなものであるか、ということである。例として、以下のようなものが挙げられた。
カテゴリ | イノベーション事例(受講者の表記による) |
農業 | 3 in 1 plant mill, Hay baler, Wind-mill pump, Money maker pump, Beans thresher, Hydraulic pump, Maize sheller, Motorbike driven water pump, Use of drones for spraying farms, Stirling machine, Oil press (Avocado, macadamia) |
エネルギー | Energy saving jikos, Diesel cooker jikos, Plastic pyrolisis machine |
ファイナンス | M-Pesa, olx |
メンテナンス | Phone repairing, Bead breaking machine, Car fire remover |
食品加工 | Meat mincer, Chips chipper |
教育 | New curriculum development, Nature corner |
セキュリティ | Mobile phone home security, M.P. card immobilizer, Mice traps, Scare crows |
輸送 | Tri-cycled truck, motorized bicycles |
健康 | Honey for medicine, Traditional preservation of dead bodies, Plant mill for crushing herbs |
経済持続性 | Hand woven basket, Beads ornaments |
インフラ | Interlocking block |
彼らが思い描くイノベーション事例の多くは、主に農業分野に多くみられることがわかった。これに関して、JKUATにおける過去の製作事例(イノベーションプロダクトと彼らは呼ぶ)を挙げる受講者も多かった。
引き続いて、これらの従来のアフリカンイノベーションと思われる事例に、先端技術を用いることで新しいイノベーションを生み出すことはできないだろうか、という議論を行った。ここで、参加者にインスピレーションを与える目的で、筆者は隣国ルワンダにおけるUAV(無人航空機)を用いた血液輸送サービス(Zipline社)の事例を紹介した。参加者の多くはZiplineの事例を知らず、これは逆に筆者にとっては驚きであった。なぜならZiplineの事例はリバース・イノベーション(途上国で開発された製品が先進国に逆輸入される)の事例として日本でも盛んに喧伝されており、筆者がルワンダにおいて参加する別件のJICAプロジェクトにおいても、しばしば耳にしていたからである。他にもアイディアを考える上での材料として、スマートフォン、AI(人工知能)、VR/AR(仮想現実・拡張現実)、自動運転、暗号通貨・ブロックチェーンなどの話題を提供した。
この議論においては、以下のような結果を得た。
先端技術を用いることで可能なアフリカンイノベーションの例
– ロボット、ドローン、スマートフォンを用いた家の監視システム
– GPS(GSMの間違いか?)を用いたドアのセキュリティシステム
– ドローンを用いた農園への空中散布
– 自動車へのカーナビの導入
この議論において特徴的だったのは、家や会社のセキュリティを強化したいというニーズであった。ケニアではそんなに家のセキュリティが問題なのか、と尋ねると、そうだと言う。家の周りには有刺鉄線や警備員を配置しているが、センサーで管理できたらコスト的にも安くて済むとのことだ。最近ではアル・シャバブが活動しているからなおさらだ、という意見も出てきたのは驚きであった。
このディスカッションは、この時点ではアイスブレイク的な位置付けで導入したが、別の意図として、彼らがどのようなものを生み出してみたいと思っているのか、率直な意見を聞いてみたかったということもある。これについては、実習が終わってから再度アンケートを取る予定なので、新たな技術を身に着けたことで、思考にどのような変化が観察されるかが楽しみである。