N-3ロケットの打ち上げ準備
なんと気づいたら前回の更新から1年経っていた。しかも前回の記事はN-2ロケットの打ち上げで、いまは後継機のN−3ロケットの準備が佳境を迎えているという状況。1年をワープした感がある。
N-3ロケットの概要は以下の通り。まず目標高度がN-2の500mから2,000mに増加。機体の全長は180cm, 胴体直径は80mm。材料はファイバーグラスとアルミニウムの胴体の2種類を開発した。N-2ロケット打ち上げの反省を活かし、オンボードストレージへのデータ保存、パラシュート放出機構の改善、発射台の再設計を施すなど、多くの点がパワーアップしている。横に立つと自分の背より高いため、ここまで大きくなったのかという感じがする。
今月末の打ち上げでは、ケニアの動物BIG5になぞらえてSimba, Chui, Kifaru, Tembo, Nyatiと名付けられた5機のロケットを打ち上げる。早め早めに準備はしていたものの、5機の製造はなかなか大変である。どの日までに何ができているかを逆算して製造工程表を作成し、毎日タスクを消化している状況である。
とくに時間がかかるのが3Dプリンティングと金属加工である。ケニアはこの時期雨が毎日振っており、停電の影響で3Dプリンティングが途中で遮断されるトラブルが頻発する。自宅にある3Dプリンタも、ほぼ24時間体制でフル稼働している状況である。大学の3Dプリンタも卒業製作の学生たちで待ち行列が発生しており、今日はバックアップの部品を業者に外注した。ちなみにその業者の経営者に言われたのだが、彼はJKUATの卒業生であり、自分が5年前に学内で実施した1週間のデジタルファブリケーションの講座に参加していたという。3Dプリンティングと電子工作をそのときに知って興味を持ち、卒業後に電子部品関連の企業を起業したそうだ。ささやかながら、自分が一人のケニア人の若者の人生の糧になれたことは嬉しいものだ。
金属加工もこの分量は大変だ。固体ロケットモータのケーシング、バルクヘッド、それにノズル。ケーシングは500mmの長さがあるので旋盤での中ぐり加工にも時間がかかる。固体推進グループの学生たちが奮闘しているが、全部のパーツの製造を自前で行うのは時間的に無理があると判断した。したがってNakujaの卒業生にナイロビの金属加工業者を教えてもらい、加工を依頼した。
固体ロケットモータは直前に実施した燃焼試験でアルミニウムのケースが熱に持たないことが判明し、軟鋼に切り替えた。N-2ロケットでも同様の対応が直前に発生したが、N-3も結果的には同様となった。次世代機N-4でもケーシングは軟鋼を利用せざるを得ないと思われる。
N-2ロケットの打ち上げではアンテナを地上に置き忘れるという失態をしたため、今回の打ち上げに向けてアンテナスタンドを準備した。
また前回は打ち上げのリハーサルをしておらず、各ロケットの準備に時間を要した。その反省から予行演習を実施し、各人員の役割と準備の流れについて確認を行った。
本当に毎日がお祭り状態で、大学の授業を午前中に終えた学生たちが、午後にはチーム総出で準備に取り掛かっている。来週の本番に向けてあと少し、マラソンは続いていく。