技官研修2日目
Autodesk EAGLEを用いた電子回路の設計実習
本実習では、Autodesk EAGLE(以下EAGLE)という電子回路CADを用いて、電子回路(PCB)の設計を行った。電子回路の設計は、1) 回路図(Schematic)作成、2) 回路パターン(Artwork)作成、3) 加工用ガーバデータ作成、という3つのプロセスに分かれている。EAGLEはこれらの3つの工程を全てカバーするソフトウェアであり、教育版の無償ライセンスが提供されている。
回路CADの選定にあたっては、以下の観点をもとにした。
- 筆者が使い慣れていること
- 教育版の無償ライセンスがあること
- JKUATで導入しているLPKF社の基板加工機に対応していること
- 回路CADのなかでも比較的シンプルな操作体系であること
まず1に関して、JKUATではProteusを多く利用していると聞いたが、筆者は電子回路CADとしてEAGLEとAltium Designerを普段の業務に利用しており、Proteusを利用した経験がなかった。また2 について、EAGLEには無償ライセンスがあり、学生や教員の自習に活用してもらうことを考えると、積極的に使いたい理由であった。EAGLEの設計データをLPKF S63で使うためのガーバデータ(RS-274X形式)に変換するためのCAM定義ファイルがサードパーティから提供されていたことも好都合であった。最後に、これは電気系の専門の参加者から感想として聞いたのだが、ProteusよりもEAGLEの方がシンプルで使いやすいとのことであった。初心者の教育的な観点からは、はじめから高度で複雑な機能を搭載したソフトウェアよりは、操作がシンプルで全体像を見渡せるものを最初に学んだほうが、のちのち応用が効くと感じているため、EAGLEを選んだのは正解であったと言える。
以下に、演習に用いるために用意した基板の設計を示す。
実際に実習時には、EAGLEの機能解説に想定より時間を要したため、DCモータの速度制御という趣旨は残したまま回路を簡易化し、以下の回路設計を行った。
今回はAdafruitの提供するEAGLEライブラリを利用したため、ライブラリの自作方法は解説しなかった。それもあって、参加者は特に詰まるところなく設計を完了させていた。ライブラリの自作方法を研修に含めると、かなり時間を要することになると思われる。
従来から分かりづらかったEAGLEのCAM Processorの操作インターフェースはEAGLE8.6.0から変更されており、多少改善が見られたが、依然としてCAM定義ファイルを開くメニューへの導線がわかりづらく、参加者から一番質問が出たのはこの箇所であった。
最初に準備した設計ではオートルータ(自動配線)の利用方法も解説する予定であったが、変更後の設計があまりに簡素であることもあり、オートルータの利用方法は解説しなかった。講習が終わった後の時間に、数人に対して補習としてオートルータの使い方を説明した。
LPKF S63基板加工機を用いた電子回路基板の加工実習
本実習ではLPKF社のS63基板加工機を用いて、実際に設計した基板の銅板への切削加工を行った。筆者は日本ではMITS社の基板加工機を愛用しており、LPKF社の加工機は初めてであったが、メカトロニクス学科のテクノロジストの助けもあって、操作方法をすぐに習得することができた。LPKFに搭載されていて、MITSに無い機能として、加工ツールのZ方向の自動キャリブレーション機能がある。大変便利な機能であり、製作者に優しい製品設計であると感動した。
S63基板加工機ではCircuit Proというソフトウェアを利用して、通常の基板加工機と同様にガーバデータ(RS-274X形式)を読み込み、ツールパスを生成し、加工機へデータを送信する。今回は簡単のために片面基板を設計したが、カメラを利用した位置合わせによって容易に両面基板を製作することも可能である。
参加者が一番知りたかったのは、複数の加工情報をどのように区別して加工機に送信するのか、という点であった。EAGLEではCAM ProcessorとLPKF S63用の定義ファイルを用いて、はんだ面データ(.sol拡張子)、Excellon形式ドリルデータ(.drd拡張子)、輪郭線情報(.outline拡張子)を吐き出すことができる。これらの各々をCircuit Proで読み込むことで、自動ツール交換装置(ATC)に対応したツールパスを生成できるということを、参加者は学んだ。
技官向けデジタルファブリケーション研修
2018年2月5日〜2月9日までの5日間、ジョモ・ケニヤッタ農工大学(JKUAT)にて、JICA短期専門家としてデジタルファブリケーションの研修を行った。デジタルファブリケーションとは、コンピュータ上での設計データを基に工作機械を操作し、製品製造を行う技術の総称である。対象となる参加者はJKUATの技術系職員であり、定員15名として募集を行った。
今回の研修の主要な目的は、従来の工学系製造設備(旋盤、フライス盤など)は熟知しているものの、デジタルファブリケーション機器という新しい機材には習熟していないJKUATの技術スタッフを対象として、iPIC導入機材の講習を行うことである。さらに機材の使い方だけではなく、3D-CADや電子回路CADといった設計ソフトウェアの使い方、工作機械の指令制御を行うCAMソフトウェアの使い方、および製品の開発に必要な組み込みプログラミングまで、製品開発・製造に必要な知識を一通り指導することもねらいとする。
同時に、iPICが現状抱えている課題を明らかにし、今後の改善に向けた提言をiPICの運営職員に行うことも目的とする。
技官研修1日目
研修初日はハンズオンの研修(実際に手を動かす実習)はなく、講師および参加者の簡単な自己紹介と、グループワークを行った。
ディスカッションを軸とした研修を最初に導入した理由は、iPICスタッフのDr. KihatoおよびC/PのMr. Omondiのリクエストによる。Kihato氏からのリクエストは、「技術の指導だけでなく、日本の支援という利点を活かし、ものづくりの心をいかにAfrican innovationに活用するかを議論して欲しい」というものであった。Kihato氏とさらなる議論を行ったところ、「もの」ではなく「こと」に焦点を当てることの必要性、という視点も新たに明らかになった。Kihato氏は、日本の経済発展というのは、そのような「こと」に焦点を当てたことも背景にあるのではないか、という。確かに日本の製造業を発展させた背景には、一見製造それ自体と無関係に思える部分(整理や整頓と言った、製造に取り組む姿勢や、「車ではなく、ひとをつくる」というトヨタの思想など)も関係があるかもしれないと納得した。結局彼の真意を推し量れば、単一の技術シーズを基軸にイノベーションを捉えるのではなく、このケニアという土地が抱える問題を解決することに焦点をおき、そもそもどのようなことが求められているのか、広い視点に立って議論を行い、そこで技術が果たせる役割は何であるのか、包括的に考えることの必要性をスタッフにも知ってほしいということであったと考えられる。このアドバイスを基に、グループディスカッションのテーマを設定し、議論を行った。
本グループディスカッションでは、アフリカンイノベーションに関する議論を行った。まず参加者に問うたのは、既存のアフリカンイノベーションの事例はどのようなものであるか、ということである。例として、以下のようなものが挙げられた。
カテゴリ | イノベーション事例(受講者の表記による) |
農業 | 3 in 1 plant mill, Hay baler, Wind-mill pump, Money maker pump, Beans thresher, Hydraulic pump, Maize sheller, Motorbike driven water pump, Use of drones for spraying farms, Stirling machine, Oil press (Avocado, macadamia) |
エネルギー | Energy saving jikos, Diesel cooker jikos, Plastic pyrolisis machine |
ファイナンス | M-Pesa, olx |
メンテナンス | Phone repairing, Bead breaking machine, Car fire remover |
食品加工 | Meat mincer, Chips chipper |
教育 | New curriculum development, Nature corner |
セキュリティ | Mobile phone home security, M.P. card immobilizer, Mice traps, Scare crows |
輸送 | Tri-cycled truck, motorized bicycles |
健康 | Honey for medicine, Traditional preservation of dead bodies, Plant mill for crushing herbs |
経済持続性 | Hand woven basket, Beads ornaments |
インフラ | Interlocking block |
彼らが思い描くイノベーション事例の多くは、主に農業分野に多くみられることがわかった。これに関して、JKUATにおける過去の製作事例(イノベーションプロダクトと彼らは呼ぶ)を挙げる受講者も多かった。
引き続いて、これらの従来のアフリカンイノベーションと思われる事例に、先端技術を用いることで新しいイノベーションを生み出すことはできないだろうか、という議論を行った。ここで、参加者にインスピレーションを与える目的で、筆者は隣国ルワンダにおけるUAV(無人航空機)を用いた血液輸送サービス(Zipline社)の事例を紹介した。参加者の多くはZiplineの事例を知らず、これは逆に筆者にとっては驚きであった。なぜならZiplineの事例はリバース・イノベーション(途上国で開発された製品が先進国に逆輸入される)の事例として日本でも盛んに喧伝されており、筆者がルワンダにおいて参加する別件のJICAプロジェクトにおいても、しばしば耳にしていたからである。他にもアイディアを考える上での材料として、スマートフォン、AI(人工知能)、VR/AR(仮想現実・拡張現実)、自動運転、暗号通貨・ブロックチェーンなどの話題を提供した。
この議論においては、以下のような結果を得た。
先端技術を用いることで可能なアフリカンイノベーションの例
– ロボット、ドローン、スマートフォンを用いた家の監視システム
– GPS(GSMの間違いか?)を用いたドアのセキュリティシステム
– ドローンを用いた農園への空中散布
– 自動車へのカーナビの導入
この議論において特徴的だったのは、家や会社のセキュリティを強化したいというニーズであった。ケニアではそんなに家のセキュリティが問題なのか、と尋ねると、そうだと言う。家の周りには有刺鉄線や警備員を配置しているが、センサーで管理できたらコスト的にも安くて済むとのことだ。最近ではアル・シャバブが活動しているからなおさらだ、という意見も出てきたのは驚きであった。
このディスカッションは、この時点ではアイスブレイク的な位置付けで導入したが、別の意図として、彼らがどのようなものを生み出してみたいと思っているのか、率直な意見を聞いてみたかったということもある。これについては、実習が終わってから再度アンケートを取る予定なので、新たな技術を身に着けたことで、思考にどのような変化が観察されるかが楽しみである。
DRコンゴ訪問時の雑感
- 徒歩外出禁止
- 一人でタクシー禁止
- 乗り合いバス禁止
- バイクタクシー禁止
- 家には警備会社をつける
- 家には鉄条網をつける
- 家の壁は3m以上にする
- 人が道で死んでる 死にかけの人がいる
- 右ハンドルが主流
- 芋虫を食べた
- 野生動物を食べる
- ひたすら賄賂を要求される 空港の綺麗さとの対比
- 物価が高すぎる ホテルが高い
- キンシャサには人口2000万人もいて、外国人の姿を見ない
- 空港で会った外国人、特に中国人たちはどこにいるのか?何の仕事をしているのか?
- 空港で見かけるのは、商社マン風の出で立ちの中国人や小奇麗なインド人
- コンゴ人自体はフレンドリー
- ディアスポラが多い状況はルワンダと似ている フランス語と英語を流暢に操る あとどんだけ金持ってんだ、って感じ
- イミグレはOKそうだけど、検疫が腐ってる イエローカードを変えたほうがいいかもしれない
- Hotel Renaissance Jumeauxっていうホテルの名前が変な名前だって言われた
- キンシャサはアートの街
- ブリコラージュ ・チャンスは大いにある
- 戦略的要衝
キンシャサにて
DRコンゴの首都、キンシャサのヌジリ空港に到着したときのこと。
飛行機のタラップを降りてバスでターミナルに到着すると、皆すぐにイミグレのカウンターに並ばされた。 噂では外国人は別室に連れて行かれて、法外な賄賂を請求されると聞いていたが、予想より小綺麗で明るく、風通しがいいカウンターだ。 さくさく列が進んでいて、外国人も問題なさそうにパスしている。 自分の番になっても、ホテルを聞かれただけで、スタンプはあっけなく押されてしまった。 空港の腐敗は改善されており、心配は杞憂だったのか。 そう思ったのは早かった。
イミグレカウンターを通過した先の検疫で、黄熱病接種証明書(イエローカード)を見せろと言われる。 他のアフリカの国々と同じように取り出して見せると、 係官A「ちぎれているからこれは無効だ」 そうきたか。確かに端が少し摩耗しているが、ちぎれているのではない。ガーナのコトカ空港で2年前に同じ手口でやられたときは出国させないと言われて20ドル払ってしまったが、流石に2度目である。これは有効な証明書だと説明する。 係官A「これはダメだ、別室に連れてけ」 別の係官Bが自分をイミグレのブースの方に引っ張っていく。どこに連れて行かれるんだろうと思っていたら、なんとスタッフルームだと思っていた扉が開いて、その中に入れられた。そんなイミグレのカウンターのすぐ横にお仕置き部屋があったのか。 戦いが始まることを悟り、気合を入れて部屋に入る。
係官B「20ドル払ったら解放してやる」 アクラでの一件の後、こんなこともあろうかと準備していたiPadを取り出し、イエローカードの見本写真を見せつける。 青木「これが見本だ、この通り、ちぎれてないだろう」 係官B(イエローカードのサンプル写真を見ながら)「サンプルの方は名前が伏せ字になっている。これはダメだ」 よくわからない言い訳を発明するもんだ。自分でも無理筋な難癖だって絶対思ってるはず。 係官B「10ドルでいいからさっさと払え」 青木「貴方の言ってることはわかるけど(本心では意味わかんないと思いつつ)、これは非常に難しい問題だ」 適当なことを言ってはぐらかし続けていると、 係官B「60ドル払いたいのか?今なら20ドルで良いって言ってるんだ。20ドル払うのか?60ドル払うのか?」 青木「(…どっちも払いたくない…)」 適当なことをふにゃふにゃ言って時間を稼いでいたら、別のアフリカ人が部屋に連れられてきた。彼もいちゃもんをつけられている。 そうこうしていると、アフリカ人の彼を連れてきた係官Cと今まで自分を尋問していた係官Bがバトンタッチした。次に来た係官Cは、最初のオフィサーにも増してチンピラみたいなやつだ。 係官C「ペナルティ払わなくて良いって言ってるんだから、とっとと金を払って出てけ」青木「払う理由がわかりません」 係官B「もういい、パスポートだせ」 自分の次に連れてこられたアフリカ人は、何かの書類に名前を記入されている。自分もその紙に何か名前を書かれるのだろうか。この紙はもしかすると入国拒否理由書かなんかじゃないのか?と思い、ここが潮時かと感じ始める。 係官C「ペナルティじゃなくて飲み物代でいいんだよ」 逃げるならここだと思い、すっと5ドルを出して彼に手渡した。すると、俺らは2人いるから10ドルだろと言ってきた。渡した5ドル札を取り返し、10ドル札を手渡した。
係官Cに、来い、と言われて部屋から解放され、再び検疫ブースに連れていかれた。 イエローカードを再び係官Aに見せる。 係官A「これはちぎれているから無効だ」 同じことを言う奴だ。 青木「(iPad上の見本画像を見せながら)これは端が摩耗してるだけなんです」 係官A「画像に印刷されていたスタンプが、お前のイエローカードには無い」 え?と思ったら、たしかにスタンプは印字されていない。 係官A「これはペナルティを支払う必要がある。部屋に行け」 またお仕置き部屋に戻された。往復することになるとは思ってもみなかった。 もしや、最初の部屋行きは、少額でもいいから金を払うかどうかを見るテストで、金を払う奴だというのを確かめてから、さらに時間をかけて高額をゆすり取るんじゃないか?と思った。 だとすると、もう自分はカモ決定なので、かなり不利な戦いだ。
再び部屋に入ると、3人の外国人(アフリカ人男女、インド人x1)がいた。 インド人は黄熱病ワクチン接種の10日以内に入国したそうで、これは普通にペナルティらしい。70ドル払って領収書ももらっていた(!)。
係官C「さっきの10ドルはお前に返す。お前はペナルティを払う必要がある」 ペナルティは70ドルか、、、と思いつつ、再びバトルを開始する。 さっき指摘されたときには気づかなかったが、サンプルでは黒インクで印字されているスタンプは、自分のイエローカード上ではエンボス加工になっていることに気づいた。 青木「サンプルでは黒インクになっているが、ここに凹凸で刻まれているのがスタンプだ」 係官C「サンプルと違うんだから、この証明書は無効だ。ペナルティを払ってもらう」 青木「でも、、、」 係官A「(別のアフリカ人に対して怒鳴る。)」 部屋がしーんとなり、さっきまで威勢良く反論していたアフリカ人がしゅんとなっている。 どうやら係官Aが一番偉く、彼に逆らうとヤバイことになるようだ。 係官Aはさっきペナルティだって言ってたから、60ドルか、70ドルか、果ては100ドル払わないといけないかもしれないなあ。万事休す。
そう思っていると、何か横の会話がおかしいことに気づいた。
係官C「だからスタンプがないんだよ」 係官B「スタンプはここに刻印してあるだろ」 係官C「この画像じゃ黒字になってる」 係官B「このエンボス加工のがそれのことなんだよ。スタンプは問題ない」 係官B「問題なのは端がちぎれてることなの」 係官C「いや、そうじゃないだろ」
なんか・・・・・・・・仲間割れしてる??
すると、大ボスたる係官Aが口を挟んできた。 係官A「問題あるのか無いのか。あるならペナルティを払わせろ。無いならとっとと出ろ。」 風向きが変わってきた。もしかすると、彼らをこのまま自滅させられる可能性がある。 係官A「言っただろ。とっとと出てけ」 ロジックとしては、Aがスタンプの瑕疵を指摘し、Cがそれを引き継いで糾弾し、何故かBがCを反駁した格好で、自分の潔白が証明された。
しかし、CとBもみすみす獲物を逃す訳にはいかない。 係官C「さっきの10ドルよこせ」 青木「でも・・・、払う理由がわかりません」 係官B「良いから払え。払ったら出してやるって言ってるだろ」 青木「でも・・・、払う理由がわかりません(本日◯度目)」 係官A「いいから来い」
係官Aに部屋から出されて検疫ブースに連れて行かれると、普通に解放された。
到着直後の30分は、こうして過ぎていった。