N-2ロケットの試験飛行
マリンディに行く前に挑戦したものの、時間切れで飛ばすことができなかった1回目の試験飛行。電装班がブレッドボードを使っていたためにロケット内部に回路を装填した際にショートしてしまい、18時に近づいていることも相まって、やむを得ず中止の指示を出すことになったのだった。
さて、今回は前回の打ち上げ時に生じた問題を改善して打ち上げに臨んだ。回路はブレッドボードではなくプリント基板を制作し、発射台とローンチラグ(ロケットを発射台に取り付ける部品)にも改良を施した。午前中に打ち上げを行う予定だったが、作業が遅れるのはいつものことだ。あいにく午後からは大使館に行く用事があり、13時半を過ぎたところで泣く泣く別の教員に打ち上げの監督を託して大学を去る。あとは学生からの報告を待つことに。
17時前だろうか、チームのWhatsappグループに連絡が入る。打ち上げの映像が送られてきた。
うまく空に向かって飛んでいる。動画からはチームの興奮が伝わってきた。打ち上げに立ち会えなかったのは寂しいが、自分たちで実行できたことは素晴らしい。
学生が包括的な打ち上げのレポートを以下の記事ににまとめてくれていた。
Second Test Flight Report (nakujaproject.blogspot.com)
上記によれば、電子回路からの機体情報(フライトログ)の送信と地上局での受信はうまくいったようだ。懸念はパラシュートが開かなかったことで、少なくともこの問題は本番の打ち上げ前に解消しておく必要がある。学生からの報告によれば、地上局で受信したデータでは最高到達点を検出した痕跡がなかったものの、パラシュート射出用の火薬は起動した形跡があるとのこと。いずれにせよ、火薬による爆風が動圧に打ち勝つだけの力を生み出せなかったようだ。ノーズコーンが機体に首をうずめていたということからも、ノーズコーンの再設計、あるいは機体への取り付け方法の改善が必要に思われる。
マリンディの宇宙センター訪問
ケニア宇宙機関の方からの声かけがきっかけで、マリンディにある宇宙センターを訪問してきた。JKUATの教員3名、Nakujaの学生21名、超小型衛星の開発チームの5名、さらにはKSAからのインターンと、30名を超えるチームでお邪魔させていただいた。学生の旅費を負担してもらうという御厚意にあずかったケニア宇宙機関には感謝である。すったもんだはあったものの、最終的に大学のスクールバスを出してもらうことができた。大学、特に支援を頂いた副学長と、実際に稼働してくれた運転手たちにはお礼を述べたい。ケニア国内の燃料不足のためにバスがマリンディで給油できず、途中中継地のMtito Andeiまで燃料を大学に届けてもらうというオペレーションが実行されるなど、話題に事欠かない旅だった。
肝心の訪問自体も大変有意義で、今後のロケットの打ち上げに向けてイタリア宇宙機関の方々と意見交換を行うことができたのが最大の収穫だった。
大学の研究シーズのインキュベーション
JKUATで常々やりたいと思っていることの一つに、大学発ベンチャーを生むメカニズムの構築がある。大学には産学連携を担当する部署があるが、日本の大学のインキュベーションセンターのようなプログラムなどは提供されていない。 ちなみにKUという近くの大学にはインキュベーションセンターがあるので、どのような活動をしているかを見学させてもらおうと元同僚経由でアポをとっている。
ケニアでは卒業時の学生の就職率が低いが、大学で学んだ知識を生かして起業に結びつけることができれば一つの理想だと思う。有望な学生たちをどのように支援できるかを探るために、学内の学生ベンチャーの状況を調査することにした。起業準備中の学生1名にヒアリングをしてみたところ、芋づる式に起業中 or 起業志望の学生を紹介してもらえたので、今後の作戦を考えている。
KSAからの出向エンジニア
今日からケニア宇宙機関からのインターンが3名Nakuja projectに参加することに。彼らとのコラボレーションが楽しみだ。
燃焼試験(KNSB)の進捗
第2コホート(2022年)のインターンによる燃焼試験が進んでいる。
第1回:2/22実施
推進剤中の水分、とくに液体ソルビトールに含まれる水分を十分に蒸発させて再トライすることに。
第2回:2/25実施
第3回:2/28実施
CuringはCasting後、通常1〜2日で完了する。放置が長すぎると硬化することが知られているが(5日程度で完全に硬化 by Nakka)、推進剤の性能も損なうようである。
第4回:3/1実施
最大推力は5N程度にとどまり、理論値の140Nとはかけ離れている(28倍の開き)。ただし計測値の信憑性が低いことが判明したため、次回の計測で検証する。
第5回:3/2実施
第2バッチのインターン生も参戦
計測された最大推力は60Nであり、理論値の140Nに近づいている。次はさらなる性能向上をねらって酸化剤リッチ(O/F = 68:32)で試してみる。ところで燃焼初期のCoughingが気になるところではある。
第6回:3/3実施
O/F比を高めて実験に臨む(O:F=68:32)。
最大推力は140Nを超えて160Nだった。設計の再確認を行うことに。
O/Fを少し低くして再実験する(O:F=67:33, 66:34)。
第7回:3/10実施
耐熱性から軟鋼で製造したノズルに換装して実験を実施。O:F比は67:33で、グレインを2つ搭載した。これにより、300N近くの最大推力が想定される。
試験は破壊的失敗に終わった。具体的にはノズルが脱落し、モータが破損した。
得られた推力曲線(ロードセルの仕様から、500N以上は信頼性に欠ける)
まとめ
- 最大推力は750N程度と出ているが、ロードセルの限界を超えているので信頼性に欠ける
- ノズルが分離したことは結果的に安全弁として機能した。チャンバーの圧力を逃がした。
- ノズルは遠くには飛ばず、テストスタンドのすぐ横に落下した
- テストスタンド、特に片持はりになっている部分が曲がった
- ケージが破損した
- 燃焼効率はほぼ100%であった
考えられる破損の原因
- 燃焼熱で燃焼室壁が溶けてしまった。ノズルとチャンバーの接続部周辺に穴が開いている
- 上記で空いた小さな穴の周辺に応力が集中し、チャンバー壁の変位をもたらした
- この変位によりチャンバーがノズルを保持できなくなり、ノズルを排出した。
改善点
- 燃焼熱からチャンバーを保護するための断熱を検討する。Nakkaのウェブサイトを参照する。
その後気づいたのがA7075の融点の低さ。A6063の融点615℃に対してA7075は477℃で融解する。そのため素材をA6063に変更することを検討した。材料の変更に伴い強度が低下するので、燃焼室の厚みを2mmから3mmに増加する必要がある。
一方で、シールが不十分なためにガスがノズルとチャンバーの隙間から漏れ、ノズルとチャンバーの不双方に過度な熱負荷が生じたという指摘があった。したがって次回の実験ではシールを強化し、A7075のまま実験を進めることになった。
第8回:3/18実施
失敗直後の実験で緊張したが、実験は成功した。概ね理論値に近い値が取得できた。KNSBが一歩完成に近づいた瞬間である。あきらめずにKNSBを追究した学生たちに拍手。