It’s just a beginning.


さあ、今日は泣いても笑っても最後の一日である。

8時30分にはラボに着いたが、ダグラスもアイザックもいない。ラボの外にスティーブンとアブーがいたので尋ねると、もう機械科の工房に移動して作業をしているそうだ。さすが今日は最後ということをみんなが理解して協力してくれている。これはうれしい。急いで自分も工房に向かう。



最後の旋盤加工

時間のかかる加工を2本のシャフトに対して行わないといけないので、手早く作業を進めることが肝心である。アイザックの様子を見ると、既に半分くらい加工が終わっている。これが火事場の馬鹿力というものなのか。

さて、こちらはダグラス、アブーとボール盤のある倉庫に移動して鉄板に穴を空ける。



鉄板への穴あけ

鉄板に穴が空いたので、次はこれにベアリングを溶接する作業である。鉄板とベアリングを持って溶接科に向かう。溶接科の先生は背が高くて大人しそうな方である。溶接科の先生と話していて興味深かったのが、最初アブーの加工法に難色を示したことだった。溶接の際に発生する多量の熱がベアリングを痛めてしまうことへの懸念があるためである。アブーがこれはプロトタイプであるため一時的な処置であること(temporal solution)、そして筆者が明日タコラディを去るために今日中に仕上げなければならず、限られた材料を考えると残された道はこれしかないことを説明して、ようやく説得することが出来た。また、この製品は何かの既成品のコピーなのか、それとも完全なオリジナルな設計なのかとも聞いてきて、完全なオリジナルの設計ですと答えると、ふーんという顔をしていた。

電気溶接を間近で見るのは初めてである。アースケーブルを底板に挟み、ホルダーに挟んだ溶接棒を母材であるプーリーとシャフトに近づけてアーク放電させる。



溶接を行う

溶接が終わった後の部品は非常に熱くなっている。



プーリーを溶接



ベアリングを溶接


溶接の動画

溶接が終わったので機械科の工房に戻ると、アイザックも作業を終えていた。皆でラボに戻って組立の作業である。
ラボに戻ると電子科のマイルス先生と息子さんがやってきた。昨日作ったアラームをもう一度見せて欲しいとのことなので、デモを見せて仕組みを簡単に説明した。Arduinoを使えば簡単にできますよというと、ArduinoをTTIでの教育に導入したいとおっしゃってくれた。Arduinoでどのようなことができるか、さらに開発環境が知りたいとのことなので、LEDの点滅やサーボモーター、AD変換の使い方をArduinoを使って説明した。Arduinoの基板がないと使えないのかと尋ねられたので、ArduinoでプログラムしたAVRのチップは水晶発振子とキャパシタがあれば単体で動作させることができることを説明した。すると日本からArduinoを購入して送ってくれ、価格はいくらだと質問される。だいたい30$くらいでしょうか、と答えると(実際はもう少し安かった)、少し高いなあという顔をしている。ここでFabduinoの出番だと思い、Arduinoは自作できるんです、回路図もネットでダウンロードできますよと伝えると、それはいいとなった。ただしArduinoを自作する場合はAVRにArduinoのブートローダを書き込む必要があるので、その書き込み方を説明した。ここでマイルス先生は席を外さないといけなくなったので、息子のジョンに更なる説明を行う。ブートローダを書き込んだAVRがArduinoでプログラム可能になることを説明するためにLEDの点滅を試し、delay関数で点滅の間隔が制御できることを説明すると、LEDはもういいから別のものを見せてくれと言われる。個人的にこの意識は素晴らしいと思った。というのも、電子工作のチュートリアルではLEDを点滅させて終わり、となってその先に進むことができないことがあるからだ。したがって可変抵抗から電圧値をアナログ入力してAD変換し、値を角度に変換してサーボモーターを制御する、というプログラムを書いてサーボモーターを動かしてみる。AD変換とmap関数の動作が初心者には少し複雑だったためかジョンはしばらく考え込んでいたので、説明の際に書いたノートの切れ端を復習用にと渡しておいた。しばらくするとマイルス先生が戻ってきたので、ジョンに基礎的なことを教えましたが、これからもメールやSkypeなどでフォローアップしますと約束をする。ガーナでプログラミングは教えられていないそうなので、Arduinoがその一助になれば嬉しい限りである。ジョンはゆくゆくラジコン飛行機が作りたいそうだが、これもArduinoとAVRプログラミングを使って作ることができる。マイルス先生はマイコンで制作したものをエキシビジョンで展示したいとも言っていた。さて、話を終えると2人は帰っていったので、分離器の作業に合流する。

ベアリングを溶接した鉄板およびプーリーを取り付けたシャフトが発電機に取り付けられた。



制作したシャフトを発電機に取り付けた様子

あと残されているのはローターに磁石を埋め込んでいく作業である。1ユニットの磁石数を多めに取ると磁石の数が足りなくなるので、厚い磁石は1枚のみ、一番薄い磁石は2枚で一組にし、スロットと磁石との間に紙を挟んで位置を固定しながら磁石を埋め込んでいく。
磁石にはローターの回転による遠心力が働くので、押さえつけるためにプラスチックのシートを外周に巻いていく。プラスチックシートとローターは画鋲を打って固定していった。



磁石を埋め込んでいく



みんなで作業する

磁石の埋め込み作業をする傍ら、アイザックが約束していたファブラボTシャツを作ってくれた。
ビニールカッターでFabLabのロゴを切り出し、転写用の板にマスキング部分を作成する。



インクを転写するための板を完成させたアイザック

これを使ってTシャツにインクを乗せていく。



FabLabTシャツ。これで晴れてファブラボガーナの一員

サイズもぴったりで、嬉しいおみやげとなった。
時を同じくして磁石の埋め込みが終わったので、運転試験を行うことにする。プーリーベルトが少し短かったようなので、発電機の下に板を挟んで底上げして高さを調節する。それではいざ、発進である!

最初の運転

エンジンが始動したと思った瞬間停止した。エンストである。エンジンの回転数が安定するまでは負荷をかけないほうが良いことがわかったので、まずはエンジンを安定させてから、徐々にプーリーを接触させていくことにした。そして2回目の運転で事件は起こった。

2回目の運転

なんとローターに埋め込んでいた大量の磁石が飛散したのだ。シールドのために設けていたプラスチックのシートを画鋲で固定していたのだが、強度が弱すぎたためである。手で確かめた感覚だとこれでいけるのではないかと思ったが、甘かった。磁石の固定については慎重に考慮しなければならないと思っていたのだが、計算をしたわけではないので判断が難しいところではあった。

とんだ失敗であるが、飛散した磁石が天井にくっついていたり、逃げ惑う子供たちがいたりと辺りは笑いに包まれた。するとエマニュエル先生が、何か音がしたけどどうしたとやってきた。事態を説明すると、怪我がなくて良かったと真剣な顔をされている。確かに一歩間違えると重大な事故になりかねない事態である。現にラボの窓にはヒビが入っていた。


ガラスを破損

この失敗を受けて、プラスチックのシートを金属のものに交換すること、遠心方向の力がかからないように軸方向に釘を打つことなどの対応策を話し合う。金属のシートはオイル缶を切り開いて制作することにした。


 オイル缶を切って利用する

切り開いた缶はヘンリーが叩いて伸ばしてくれた。

アルミ板を叩いて平らにする 

このシートを横にのりしろを残した大きさに切っていく。

アルミシートを切っていく

のりしろを曲げてローターにフィットするように取り付ける。

シールドの取り付け

ここで時計を見ると時間は18時を回っていた。普段ならとっくにラボのメンバーは帰っている時間だが、今日は最後の日とあって皆付き合ってくれた。

シールドを取り付け終わったので分離テストを再開する。


金属の分離テスト

一円玉、釘をベルトコンベアの上に置いて最高回転数の時にそれらが動かされるか試してみる。途中、一円玉が跳ね上がって飛んでいったのを見て歓声が上がったが、それはベルトコンベアから脱落した1円玉がローターに弾き飛ばされたことに気づく。ローターとベルトの間のクリアランスを極限まで小さくしてみるなど、その後何度か条件を変えてテストを試みたが金属はついに動かされなかった。

最後のテストが終わり、部屋にはアブー、ヘンリー、そしてもう一人の生徒が残るのみであった。自分もアブーも放心状態という感じで、しばらく渦電流分離器の隣に何も言わずに腰掛けていた。するとエマニュエル先生がラボにやってきた。どうだった?と尋ねるので、クリアランス、磁石の磁力が弱いこと、磁場の方向が直線的でないことなど複合的な要因で金属を分離することができなかったことを告げる。

またコンベアベルトを動かしてみるが、こちらも製作精度の甘さが積もって余分にトルクがかかっており、滑らかには動いてくれない。


ベルトコンベアの駆動

とりあえずは動いたものの、これからこのプロトタイプを改変していけるという所に立てたという段階である。当初想定していたのは、このプロトタイプが如何に変わっていくのかというところだったが、とてもそんなところまで到達することはできなかった。磁石などの材料が手に入らないこと、CNCの突然の故障、そして停電など、数多くの事柄が積み重なり、予想以上に時間がかかってしまったが、これは途上国におけるものづくりの現状を知るための貴重な体験となった、

自分はエマニュエル先生にこう告げた。プロトタイプが機能するところまではたどり着かなかったが、この経験を通してガーナという国でどのような材料が手に入り、どのような機材を使うことができ、そしてどれくらいの時間がかかるか、などの大まかな感覚をつかむことができた。もちろんこのプロジェクトはこれで終わりではなく、これからより効率的で、役に立つものづくりをファブラボガーナで行なっていくための最初の一歩である。自分はこの経験を研究に反映して、これからも良い関係を築いて行きたい、と。エマニュエル先生も納得してくださり、今後の発展ための第一歩という形で今回のプロジェクトは幕を閉じたのであった。

エマニュエル先生には自分が先週末から構想していたソーラーCNCの話もした。TTI工房では旋盤などが使えるが、停電の際には機能しない。したがって、ソーラーセルでカーバッテリーを充電し、そこからステッピングモータの電力を取り出すCNCである。さらにこのCNCは折りたたみ可能でスーツケースの中に収めることができ、設置場所を選ばず、例えば屋外など、どこでも使うことができる。ガーナでは所望の大きさや形状の材料が手に入ることは稀であり、基本的に材料は加工することが前提となる。今回の滞在では木工CNCを使わせてもらうことが出来たが、安価な木材を材料としてCNCを用いて自由な寸法に加工することは、ボトルネックとなっている加工の速さと、材料の入手性という2つの問題を一度に解決できるので、とても有効であることを悟った。

日本に帰ったら、まずはこのCNCについて検討することから始めよう。

10. 10月 2012
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