Kenya Space Expo & Conference 2022に参加
6/15-17の3日間にわたって開催されているKenya Space Expo & Conference 2022にNakuja projectの学生と参加している。ケニア宇宙機関(KSA)が主催しており、今回が初回の開催とのことだが、KSAによれば毎年開催していく予定とのこと。海外からもゲストを招いており、興味深い講演と展示を見ることができた。Nakujaの学生たちもN-2ロケットの展示を行い、来場者たちと楽しそうに交流していた。
自分はパネリストとして招待され、Rocket Development in JKUATという題目で講演をさせていただく機会もいただいた。自分のセッションはMIT研究員のグラディス、ベル・テキストロンのジョシュア、ケニア工科大学のハミール教授、KSAのニャワデ中佐というメンバーで、モデレーターを努めていたのはケニヤッタ大学のムウォンゲラ教授だった。メンバーは皆愉快な人物で、楽しい時間を過ごすことができた。セッションのあとにも彼らと話したところ、どの方々とも今後連携していくことができそうで、貴重な出会いの場を提供していたKSAには感謝である。
ブース展示の際の写真。中央が国防省大臣、その隣がKSAの局長。
PAUSTIの講義始まる
今日は初回の講義だった。今年度の講義に登録している修士の学生は4人で、出身国の内訳はアンゴラ、チュニジア、中央アフリカ共和国、ジンバブエだった。仏語圏の学生は英語へのキャッチアップができていないようで、指名して発言を促しても答えに窮していた。この授業は3年目だが、ここまで英語に難があるのは初めての経験である。とはいえ学生たちは修士研究で英語論文を完成させる必要があるので、この講義を通じて成長してもらえたらと思う。
ケニアでのドローン免許の取得
ケニアではドローンの飛行は許可制となっている。違反した際の罰則は厳しく、パイロットライセンス(RPLという)を非所持で飛行した場合は200万シリング(日本円で約200万円)の罰金が課せられる。冗談のような金額だが、これに加えて航空局に未登録のドローンを飛行した場合、さらに200万シリングが課せられる。商用での空撮のように営利目的で飛行させる際は、別途専用のライセンス(ROCという)を取得する必要があり、これについても違反した場合は200万シリングの罰金が課せられる。すなわち最大で約600万円の罰金になりうるため、知らずにドローンを飛ばすと大変な結末が待っている。
パイロットライセンス(Remote Pilot License: RPL)であるが、これはドローンの教習所(Drone Training Organization: UTO)で取得することができる。2022年5月現在でUTOはケニア国内に7つ存在し、300名のドローン操縦免許の保持者を輩出したとのこと(参考:Licensed drone pilots rise to 300 – Business Daily (businessdailyafrica.com)。ライセンス講習の所要期間は2週間程度で、金額は自分が見積もりをとった2、3社では、16万シリングから20万シリングといった範囲であった。旅行者が気軽に申請できるレベルではないが、ケニア在住者でなくともライセンスの取得は可能だと思われる。というのも、RPLの申請資格は1)18歳以上であること、2)英語の読み書き会話に問題ないこと、3)クラス3医療証明書を保持していること、であり、ケニアの在住の有無を問うていない。一方で、ドローンの機体登録はケニア在住者に限られるという規則があるため、ケニアで登録されたドローンを貸してもらわない限り、短期訪問者がケニア国内でドローンを飛行させることは難しいと考えられる(これは私個人の理解なので、もし疑問に思われた場合はケニア航空局に問い合わせてほしい。短期訪問での持ち込みが完全に禁止されているとすると、取材などでの運用は現地の企業にまかせる必要が出てきてしまうし、実際のところはわからない)。
航空法が改正された2020年以降のケニアへのドローンの持ち込みは、正規の輸入手続きを経て行うことになっている。許可なく持ち込むと空港で没収される(実際に没収された知人によれば、ドローンは倉庫に保管され、ケニア出国時に保管期間に応じた保管料を支払えば返却してもらえるとのこと)。法改正がなされた2020年以前にケニアに持ち込まれたドローンについては、航空局に機体登録を申請すれば使えることになっている。自分も法改正以前にケニア国内に2台のドローンを持ち込んでいたが、これらを業者に頼んで航空局に機体登録した。機体登録は次のサイトから個人でも行える。https://rpas.kcaa.or.ke/ 登録料はドローン1機あたり3,000シリングである。このサイトからドローン輸入の手続きもできるようである。
クラス3の医療証明書(Medical certificate)であるが、これはAviation doctorから発行してもらえる。自分はナイロビのSouth Cにあるクリニックを訪問してクラス3の証明書を発行してもらった。具体的には、該当のクリニックに行ってClass 3 Medical checkupを受けたいと伝えれば良い。これは航空業界で業務に従事する者が受検する健康診断で、具体的には以下のような診断項目がある。
- 問診(家族に高血圧、糖尿病の者はいるか )
- 色盲検査(石原式)
- 血圧
- 聴診器
- 耳の中の目視チェック
- 目の目視チェック
- 口の中の目視チェック
- 視力検査
- 身長体重測定
- 心電図
- 尿検査(糖尿病)
- HIV血液検査
- 胸部X線検査
個人的にはHIVの検査を生まれて始めて受けさせられて面食らった。なぜ必要なのかはわからないが、免疫が弱るので操作に支障が出るということなのだろうか。ちなみにクラス1は旅客機のパイロット、クラス2は貨物機とプライベートジェットのパイロット、クラス3は航空管制官とドローンのパイロットが受ける区分だそうである。クリニックに伺った際も、航空業界と思われる数名の方々がMedical checkupを受検されていた。
Medical certificateを取得したら、実際に教習所(UTO)に出向いて登録を済ませる。座学が5日間、飛行訓練が5日間というのが標準的なスケジュールであるようだ。座学では主に以下の内容を扱う。
- Air law(航空法規)
- Flight planning(飛行前の確認事項や義務付けられた飛行記録)
- Human performance(視覚、疲労など操縦に影響を与える要素)
- Meteorology(気象学。風や雨など天候や大気の特性について)
- Navigation(地理学、GPSなど)
- Theory of flight(ドローンのハードウェア)
- Battery Procedure(バッテリの種別、保管、充電など)
- Radio telephony (試験範囲外)
座学では試験をパスする必要があるが、仕事の合間に一部の講義を受け、あとは講義スライドと模試を送ってもらって詰め込み勉強したので、なかなか大変だった。試験は選択問題(計100問)で、時間は3時間だった(自分は早く終わったため最初の20〜30分くらいで退席したので、詳しい試験時間を覚えていない。2時間だったかもしれない)。合格ラインは70点以上である。試験会場は試験官が同席し、回答中の生徒の様子は録画されるという徹底ぶりであった。航空局へのコンプライアンス目的で録画するらしい。
飛行訓練では、合計で300分の累積飛行時間を達成する必要がある。300分=5時間ということで短く感じるが、実はそうでもない。日差しの強いケニアで1時間も飛行させると、かなりバテる。1つのバッテリで飛行できる時間は20分弱であり(だいたい18~19分)、すなわち3回も飛ばすと疲労がたまってくる。自分は仕事の関係で練習の日にちがあまり確保できず、1日の間に7回、8回の飛行をこなす必要があったので、かなり体にこたえた(一日の最後の方はコントローラを持ち続けて立っているのがつらくなり、早く終わってくれと念じながら参加していた)。
飛行訓練はコントローラを用いたマニュアル操作の習得を主眼としており、アプリ上でカメラでの映像を確認したり、GPSを使って飛行軌跡を指定するウェイポイント飛行などは一切取り扱わない。通常の業務ではアプリを使って自動的に飛行させるのになぜマニュアル飛行にこだわるかというと、緊急時に安全に機体を帰還させるスキルがパイロットには求められているからである。飛行訓練に使用した機体はPhantom3とPhantom4だった。最初のほうはずっとPhantom3を渡されていたので、Phantom4を使わせてもらったときには姿勢の安定が格段に良くて驚いた。
飛行訓練の内容だが、4つの隅に置かれた三角コーンの辺上を移動する課題(Horizontal Box)が基礎である。これにはTail in HoverとDirectional flightという2種類がある。違いはドローンのYaw方向を変更するかどうかである(ずっとドローンのお尻を見ているのがTail in Hover、Yaw方向に旋回させるのがDirectional flight)。Horizontal boxは簡単だが、これに加えて2つ難しい課題がある。ひとつめはPoint of interestで、Horizontal Box (Directional flight)の動作をよりなめらかにした動きである。コーンの中央に撮影対象物があり、それを旋回しながら撮影し続けるようなイメージの動作である。もうひとつは名前を忘れたが、45度前方に急上昇したあと、今度は45度で下降して戻ってくる動作である。自分はこの課題で最初苦戦した。ドローンを前方に飛ばすのは簡単だが(雑にやってもなんとかなる)、45度で降下させるイメージがなかなかつかめなかった。
所定時間の飛行訓練を終えた後は、航空局のFlight examinerによる現地試験が行われる。試験といってもこのタイミングで落とされることはないようだが、ドローンを墜落させたり、操縦があまりに不安定な場合は、訓練のやり直しもあり得るのかもしれない。また実際の実技試験の前には口頭試問がある。事前の教習所の教官からの情報では、口頭試問についてはグループ試問なので、答えられなかったら答えられる他の人が答えればよいと言われていた。現実にはこれは異なっていて、自分たちのFlight examinerは、回答者を指名して答えさせるタイプの人物であった。不思議なもので、うろ覚えの部分に限って質問されるものである。METAR(気象予報のコード)を見せられて意味を答えよと問われた際に、気温/露点を示している部分をTAFの予報期間と混同して答えたため、試験官の失笑を買っていた。自分の際は4人1グループで試問を受けたが、40分くらいの圧迫面接を経て、この程度でいいだろうと、なんとか解放されたのであった。
実技試験については、1人5分~10分程度で、飛行区域の現況報告、機体状況の確認、電源の投入、機体基本動作、Horizontal box、Point of interest、45度上昇降下などの実施をFlight examinerから指示される。これに加えて、自分の場合は機体を見失ったと仮定した場合の自動着陸もリクエストされた。自分の番は受験者4人中の4人目だったこともあって、比較的あっさり終わった。
すべての行程が終わると航空局から証明書が発行される。
RPLの有効期限は2年であり、2年おきに更新する必要がある。ちなみにClass 3 Medical certificateの有効期限も同じく2年である。
ちなみに自分はRPLを取得してからまだ一度もドローンを飛ばしていない。今後学内の研究グループが活性化されるにつれ、飛ばす機会が増えるだろうと期待している。
夏学期の授業
2年前から担当しているIntegrated product designを今期も受け持つことになった。昨年と同じ同僚の教員と分担する予定。今期の内容を考えるにあたって、前回、前々回を振り返ってみることに。
2020のスケジュール: (第1回、第2回)3D modeling, 3D printing(第3回、第4回)PCB design & fabrication(第5回、第6回)Embedded programming(第7回、第8回)Webプログラミングと通信ネットワーク(第9回、第10回)CNCの要素技術と制御(第11回、第12回)FEM(第13回、第14回)信頼性工学(第15回)最終発表
2021のスケジュール(第1回)Product development process(第2回)3Dモデリング Part I(第3回)3Dモデリング Part II(第4回)メカトロ設計(第5回)前半:LCA、後半:機会発見(第6回)プロトタイピング(第7回)前半:制御、後半:最終発表
1年目はCNCの設計に必要な一連の要素について講義した。また最終課題として、学生全員で1つのプロダクトの設計を発表するという課題を出した(最終的に提案されたのは食品3Dプリンタの設計)。1年目の学生の反応は概ね良かったが、Webプログラミングの分野は専門外だという不満が一部の学生から出てきた。特許についても知りたいというフィードバックがあった。
2年目の内容を考えるにあたって、シラバスに与えられた関連文献を今一度よく読んでみた。すると、integrated product designという言葉が、製品設計の上流のニーズ定義や、下流の製造部分を考慮した製造設計も包含した、包括的なデザイン行為を意味していることがわかった。したがって2年目は機会発見(Discovering opportunities)や、環境への影響評価(LCA)といった観点を盛り込み、より総合的な内容とした。また、シラバスの記述に従い、3Dモデリングの比重を大きくした。2年目の最終課題は学生一人ひとりの個人課題とし、製品計画の作成と3Dモデルの作成を課題として与えた。これは授業の後半部分を担当する教員からは好評であった(3Dデータを後半の強度解析で利用できるので)。2年目は講義内容としてはおさまりが良かったと思うが、その後講義を受講した学生たちと修士論文の指導で関わっていて、彼らの全体的なスキル不足に気づいた。とくに組込みプログラミング(条件分岐、ハードウェア割り込み)を補強したほうが良いと感じた。
上記を考慮して3年目の内容を検討した。その結果、内容としては1年目に寄せ、3Dモデリングと組込みプログラミングに力点をおいた内容にすることとした。
2022年のスケジュール(案):(第1回)メカトロ設計(第2回)3Dモデリング Part I(第3回)3Dモデリング Part II(第4回)組込みプログラミング Part I(第5回)組込みプログラミング Part II(第6回)Fabrication(第7回)最終発表
(追記)その後学科のコーディネーターからタイムテーブルが送られてきた。見ると、月曜午後と水曜午後に実習が割り当てられている。水曜午後を実習に当てることができれば、3Dモデリングや組み込みプログラミングのコマを増やす必要はないだろう。したがって最終的に内容はほとんど昨年度と変えないことにした。昨年の時点で講義の形はほぼ完成していたということだ。
2022年のスケジュール(確定):(第1回)Product development process(第2回)Mechatronics design(第3回)3D modeling(第4回)Embedded system(第5回)Fabrication(第6回)Discovering opportunities(第7回)Life cycle assessment、最終発表
インターンの成果報告会
Nakuja project(ロケット)とJibebe(電気自動車)のインターンシップの報告会を実施した。今年はロケットで24名(JKUAT19名、KU2名、KSA3名)、電気自動車で12名のインターンを受け入れた。インターンに参加した学生たちは、1月から4月までの4ヶ月間、苦楽をともにした仲間たちと一緒にプレゼンテーションに臨む。
報告会のゲストとして、ロケットにはケニア宇宙機関(KSA)の長官、電気自動車には障害者向けの車椅子・トライサイクルを製造するNGO(APDK)のCEOを招待した。正直なところKSAの長官が来るとは思っていなかったが、突然出席するとの回答があり、学長室への報告やお茶菓子の手配などで、にわかに忙しくなったのだった。結局KSAの長官からは前日の夕方に連絡があり、都合がつかなくなったのでナンバー2(ダイレクター)を派遣すると伝えられた。当日は学長の都合もつかなくなったので、副学長が参加してくださった。
成果報告会での学生のプレゼンテーションは成功だった。ロケットについてはリハーサルを3回、電気自動車については2回行ったので、発表については特に心配していなかった。ロケットの方で良かったのは、KSAのダイレクターからN-2ロケットの打ち上げに関する支援とJKUATとの連携について積極的な言葉をもらえたこと、電気自動車については電動トライサイクルの製品化に向けて、大いなる期待を語ってもらったことだった。
とくにAPDKのCEOのスピーチは熱情的で、胸を動かされるものだった。宇宙という遠い夢を追うNakujaと、ケニアの障害者のサポートという地に足のついた問題解決を目指すJibebeに2本立てで取り組むことは、技術者として大変に面白いチャレンジであることを再確認した。