バック・イン・T.T.I.
昨日は19時頃からうたた寝してしまった。
順調に蚊にさされてるので、そろそろ気を引き締めて対策していかないとやばそう。
さて、ホテルをチェックアウトして昼過ぎにT.T.Iに着いた。
ファブラボに着くと、いつもの奥のPC席にアイザックが座っていた。久しぶり、と声をかけ、再会を祝して抱き合う。覚えててもらっているのはうれしいものだ。FAB9どうだった?との会話から始まり、色々話していると、アイザックはアムステルダムのFAB6に参加していたことを知る。みんな割と海外経験あるんだな。3Dプリンタのキット(Prusa i3)を台湾から持ってきたよ、というと喜んでいた。
ラボには10名弱くらいの生徒が集まっていた。心持ちか女の子が多いように思える。(あとでスティーブンに聞いたら女学生が増えたとのこと。自動車科から2名、あとは電気科。調理科/服飾科じゃなくてエンジニアリングの学生っていうのが驚き。)
しばらくするとスティーブンが、続いてダグラスがやってきた。去年の8月に会ってるからスティーブンは変わってない。ダグラスはまあ、いつもの軽いテンションで安心した。
スティーブンと今回の滞在について話をする。3Dプリンタのキットを持ってきたこと、農業機械のプロジェクトを計画していることをひと通り話すと、OK分かった、ちなみにこっちも手伝ってほしいことがあるんだけど、と現在走っているプロジェクトについて教えてくれる。
メインのプロジェクトは石油会社がCSR的な意味合いで持ちかけてきた話で、市場で売られているようなSmoked fishを、薪を燃やさずに作るオーブンを作れないか、との相談だった。T.T.I.側のブレストではソーラーパネルを使った電熱オーブンとか、フレネルレンズを使ったソーラーオーブンの案が出ているとのこと。アブーも協力していて、製作だけでなくユーザー調査も行なう、わりと大きな規模のプロジェクトだった。ちなみに筐体の製作は溶接科の担当で、FabLabはシステム構成と設計を担当するらしい。なんかこの役割分担には疑問が残るところではある。溶接科のコミット少なくない?下請けっぽいというか。
魚オーブンは面白そうなプロジェクトではあるけど、わりと色々なステークホルダーがからんでるので、足取りが重そうな印象もある。面白そうなので手伝いたいが、こっちの時間は限られているので、正攻法で攻めるか(彼らが望むものをそのまま作るのか)は少し考えたほうが良さそう。
あと、ロチェスター大学の一団が来月ソーラーエネルギー関連のワークショップのために訪問するとも聞いた。ロチェスター大学はニューヨークにある大学だと初めて知る。結構色んなところから話があるんだなあ。明日はルワンダから視察団が来ることもあるし。
スティーブンと話を終えるとダグラスが話しかけてきた。金属を検知する装置を作りたいと言うので、それって前回自分が作ったやつ(渦電流分離器)だよね?と聞くと、どうやら少し違うものを考えているらしい。回路図があるから、と見せてもらうとBFO Metal Detectorと書いてある。BFOはBeat Frequency Oscillatorの略で、うなり発振器というコイルを2つ使った回路だった。BFOは知らなかったけど、共振周波数を使って金属を探知することができるみたい。
ダグラスはアナログ回路好きだよなあと思いつつ、Arduinoで出来ないのかと調べていると、やはり作っていた人がいた。コードを読んだ感じだと、検出したい物体の周波数をマイコンに登録できるようで、こっちの方がシンプルかつフレキシブルである。これを作ってみようとダグラスと話す。あとで聞いたら、これも人からの頼まれごとっぽかった。作るのは構わないんだけど、最終的にプロダクトになり、産業につながるといいんだけどな。
夕方は6時前になると徐々に日も暮れてくる。ラボの後片付けをして、スティーブンと宿舎に向かった。
泊まっている宿舎の近くに差し掛かると、向かいの大きな家からエマニュエル先生が出てきた。そういえば前回来た時に、もうしばらくしたら副校長用の家に引っ越すと言ってたことを思い出す。
スティーブンと3人で外で話していると、いきなりエマニュエル先生の家の電気が切れた。
停電だ、とスティーブン。
計画停電は前回同様まだ続いていて、2,3日に一回4時間程度停電するようだ。前回は1日おきだったから、少し進歩したのかもしれない。
灯りはある?と聞かれたので、持ってないからそのへんで買ってくるよと言うと、スティーブンがちょっと待ってて、と家からLEDランタンを持って来てくれた。
なんともはや、ガーナに戻ってきたなあという感覚だ。わかってはいるけど、仕事がたまってる時にこれはきついなあ。バックパッカーなら呑気に飲みにでも出かければいいものなんだけど。
さて、家に戻ると、直ちに蚊取り線香を設置することに。
そして蛇口をひねると水が出ない。断水らしい。シーリングファンも回らないし、真っ暗だし、どうしたものかなと、とりあえずベッドに横になる。
とりあえずPCは充電しててバッテリが残ってるので、ブログを更新することに。
暗闇の中でキーボードを叩いていたら、ほどなくして電気が復旧した。こんなに復旧早いんだ、と少し驚きである。遠くから子どもたちの歓声が聞こえてくる。電気って当たり前だと思ってるけど、本来は歓声が上がるくらい大切なものってことか。
タコラディへ移動
朝は早起きしてFAB10の航空券を予約するなど。
ホテルを6:15頃に出てタクシーでSTCターミナルへ。
いっつもタコラディへはカネシのモーターパークからバスに乗ってたけど
Lonely planetにSTCから出ていると書いているので、それに従ってみる。
バスターミナルに着くと、もう出発するから急げと急かされる。
料金は18セディ+荷物代で2セディ。STCは若干高めなのかな?
出発は6:45だった。定刻は6:30といったところかな?
バス車内では例の大声でがなりたてるラジオが流れている。
海外線から一本入った道なのに、結構山あいの土地に感じる。
途中でかい湖みたいなのがあった。Googleマップで見たら、Weija reservoir(ウェイジャ貯水池)というらしい。
ネットが普通に使えるので、バスの中で仕事したり、うたた寝したりしていると、ほどなくタコラディに到着した。
Pipe Anoの看板が目に飛び込んでくる。帰ってきたなあ。
びっくりしたのは、週末にプロパンガスの補給でにぎわうラウンドアバウト近くのガソリンスタンドの裏の広大な敷地にTakoradi mallが建設予定であったこと。
タコラディにも大型量販店が出来るのかあ。なかなか感慨深い。現地人の所得も上がってきているのかもしれない。
You84で昼ごはんを食べて、ルワンダからのゲストのホテルの予約などを行なう。
You84から見下ろすサークル
レベルアップした感のあるFried rice
両替も済ませて(レートは2.90)、T.T.Iに向かおうとエマニュエル先生に電話をかける。
タコラディに着いたので今から向かおうと思いますというと、何やらロッジの手配が間に合っておらず、明日来てくれと言われた。
しょうがないので、今日はホテルに泊まることにする。
日本を出てからまだあまり仕事ができていないが、まああせらずにいこう。
ちなみにサークル周辺を歩いていても、前回来たと違ってチンチョンとかチャイナとか、声かけられなくなった気がする。
滞在する中国人が増して、アジア人が珍しくなくなってきたのだろうか。
サークルにあるいつものスーパーに入って蚊取り線香やら洗剤やらを購入する。
蚊取り線香を見かけたガーナ人女性に、あらMosquite coil買ってるわと笑われた。
中国人はMosquite coilを使わないと思ってるのだろうか。
ホテルへの帰りがけにアチョーとかシーフー(師夫?カンフーマスター的な意味らしい)とか声をかけられる。
おお、これだこれだとなぜか少し安心するのであった。
ガーナに到着
アブダビ、ナイロビ経由を経てガーナに到着しました。
ナイロビではカマウと再会を果たす。様々なプロジェクトをステークホルダーを巻き込んで精力的に展開する彼の姿には勇気をもらった。家賃払いに行かないといけないから今日はここで、と言われたのにはすこしずっこけたけど。一緒にいた伊藤さんと、M-Pesaで払えばいいんじゃないの?とジョークを言う。
FAB10でまた議論しようと言われ、これはFAB10に行かないといけないなと心持ちを新たにする。
色々と懸念していたアクラのコトカ空港はなんとか通過することが出来た。しかし賄賂の要求は全く改善していない。勿論払うつもりはないが、払わないとスタンプ押さないぞとしつこく粘ってくる。イミグレブースも個々が影に隠れるようにジグザグに配置されており、悪意を感じざるを得ない。
アクラの気温は30度といったところ。昼過ぎの日射はかなりきつい。
まずは物資をそろえるためにアクラモールへ。アクラモールの両替レートはかなり悪かった(1USD – 2.85C)。空港の両替所は2.93Cだったのに。
まずは竹内さんがブログに書いていたVodafoneのモバイルWifiルーターを185セディで購入。かなり快適に使える。計測結果はアクラ市内で1.54Mbps、上り0.32Mbpsでていた。購入後にスタッフにルーレットを回すと景品がもらえると言われたので、立て付けの悪いルーレットを回す。USB modemが当たり、おめでとう!と言われるも何やらスタッフはにやにやしている。「Tomorrow.」というのでどういうこと?と聞き返すと、「Sorry, we’re lying.」と言われてジョークだったことを知る。なんだそりゃ。
左がVodafoneのWi-Fiルーター 電池の持ちが悪いので自前のE-mobileルーターにSIMを差し替えて使っている キャリア名はONE Touchとなっている
次にSonyストアでデジタルカメラCybershotを購入。530セディに加えて、SDカード55セディ、カメラケース100セディを同時に購入するから650セディに負けてくれと交渉すると、すんなりOKをもらう。
最後にTigoストアで携帯SIMを購入。SIMは1セディで5セディをチャージした。店内はさながらアップルストアといった様相で、小綺麗であった。
ホテルに向かい、近くのピザ屋で夕食をとる。ここは以前来て、とてもサーブに時間がかかることを知っていたが、今回は記録更新となる遅さだった。パスタ1つに1時間半はどう考えても長過ぎる。
夜目覚めると、左腕が3ヶ所蚊に刺されているようだ。一応虫除けの対策はしていたのだが。アクラでもマラリアが増加しているそうなので、これは危ない。明日は蚊帳を買いに行こう。
体を慣らす日曜日
くたびれていたのか、二度寝を繰り返して10時半頃に起床。
まずホテルを一泊延長する。一泊46セディ。
そして14日にタコラディにいらっしゃるゲストのためにタコラディのホテルを予約。一応人数分は確保できたが、131USDと言われた。西アフリカはホテルが高いなあ。
事務作業を終え、14時半頃に昼食をとりにいく。日曜だとあまり店が空いていない。Palomaホテルのレストランでジョロフライスを食べた。しかし分量が多すぎる。量を半分で金額も半分にしてもらいたいところ。結局この日はこれしか食べない一日一食だった。
さて、次は蚊帳を調達すべくタクシーでマコラマーケットへ。やはり日曜でほとんどの店が閉まっている。服屋っぽい店で蚊帳があるか尋ねると、売っていた。赤ちゃん用?それともあなた用?と聞かれたので、自分用ですと答えると、大きいのを出してくれた。あいにくテント式のポータブルなタイプは置いてなかった。蚊帳は1つ15セディ。ガーナ人も使ってるのだろうか?
蚊帳を設置
It’s just a beginning.
さあ、今日は泣いても笑っても最後の一日である。
8時30分にはラボに着いたが、ダグラスもアイザックもいない。ラボの外にスティーブンとアブーがいたので尋ねると、もう機械科の工房に移動して作業をしているそうだ。さすが今日は最後ということをみんなが理解して協力してくれている。これはうれしい。急いで自分も工房に向かう。
時間のかかる加工を2本のシャフトに対して行わないといけないので、手早く作業を進めることが肝心である。アイザックの様子を見ると、既に半分くらい加工が終わっている。これが火事場の馬鹿力というものなのか。
さて、こちらはダグラス、アブーとボール盤のある倉庫に移動して鉄板に穴を空ける。
鉄板に穴が空いたので、次はこれにベアリングを溶接する作業である。鉄板とベアリングを持って溶接科に向かう。溶接科の先生は背が高くて大人しそうな方である。溶接科の先生と話していて興味深かったのが、最初アブーの加工法に難色を示したことだった。溶接の際に発生する多量の熱がベアリングを痛めてしまうことへの懸念があるためである。アブーがこれはプロトタイプであるため一時的な処置であること(temporal solution)、そして筆者が明日タコラディを去るために今日中に仕上げなければならず、限られた材料を考えると残された道はこれしかないことを説明して、ようやく説得することが出来た。また、この製品は何かの既成品のコピーなのか、それとも完全なオリジナルな設計なのかとも聞いてきて、完全なオリジナルの設計ですと答えると、ふーんという顔をしていた。
電気溶接を間近で見るのは初めてである。アースケーブルを底板に挟み、ホルダーに挟んだ溶接棒を母材であるプーリーとシャフトに近づけてアーク放電させる。
溶接の動画
溶接が終わったので機械科の工房に戻ると、アイザックも作業を終えていた。皆でラボに戻って組立の作業である。
ラボに戻ると電子科のマイルス先生と息子さんがやってきた。昨日作ったアラームをもう一度見せて欲しいとのことなので、デモを見せて仕組みを簡単に説明した。Arduinoを使えば簡単にできますよというと、ArduinoをTTIでの教育に導入したいとおっしゃってくれた。Arduinoでどのようなことができるか、さらに開発環境が知りたいとのことなので、LEDの点滅やサーボモーター、AD変換の使い方をArduinoを使って説明した。Arduinoの基板がないと使えないのかと尋ねられたので、ArduinoでプログラムしたAVRのチップは水晶発振子とキャパシタがあれば単体で動作させることができることを説明した。すると日本からArduinoを購入して送ってくれ、価格はいくらだと質問される。だいたい30$くらいでしょうか、と答えると(実際はもう少し安かった)、少し高いなあという顔をしている。ここでFabduinoの出番だと思い、Arduinoは自作できるんです、回路図もネットでダウンロードできますよと伝えると、それはいいとなった。ただしArduinoを自作する場合はAVRにArduinoのブートローダを書き込む必要があるので、その書き込み方を説明した。ここでマイルス先生は席を外さないといけなくなったので、息子のジョンに更なる説明を行う。ブートローダを書き込んだAVRがArduinoでプログラム可能になることを説明するためにLEDの点滅を試し、delay関数で点滅の間隔が制御できることを説明すると、LEDはもういいから別のものを見せてくれと言われる。個人的にこの意識は素晴らしいと思った。というのも、電子工作のチュートリアルではLEDを点滅させて終わり、となってその先に進むことができないことがあるからだ。したがって可変抵抗から電圧値をアナログ入力してAD変換し、値を角度に変換してサーボモーターを制御する、というプログラムを書いてサーボモーターを動かしてみる。AD変換とmap関数の動作が初心者には少し複雑だったためかジョンはしばらく考え込んでいたので、説明の際に書いたノートの切れ端を復習用にと渡しておいた。しばらくするとマイルス先生が戻ってきたので、ジョンに基礎的なことを教えましたが、これからもメールやSkypeなどでフォローアップしますと約束をする。ガーナでプログラミングは教えられていないそうなので、Arduinoがその一助になれば嬉しい限りである。ジョンはゆくゆくラジコン飛行機が作りたいそうだが、これもArduinoとAVRプログラミングを使って作ることができる。マイルス先生はマイコンで制作したものをエキシビジョンで展示したいとも言っていた。さて、話を終えると2人は帰っていったので、分離器の作業に合流する。
ベアリングを溶接した鉄板およびプーリーを取り付けたシャフトが発電機に取り付けられた。
あと残されているのはローターに磁石を埋め込んでいく作業である。1ユニットの磁石数を多めに取ると磁石の数が足りなくなるので、厚い磁石は1枚のみ、一番薄い磁石は2枚で一組にし、スロットと磁石との間に紙を挟んで位置を固定しながら磁石を埋め込んでいく。
磁石にはローターの回転による遠心力が働くので、押さえつけるためにプラスチックのシートを外周に巻いていく。プラスチックシートとローターは画鋲を打って固定していった。
磁石の埋め込み作業をする傍ら、アイザックが約束していたファブラボTシャツを作ってくれた。
ビニールカッターでFabLabのロゴを切り出し、転写用の板にマスキング部分を作成する。
これを使ってTシャツにインクを乗せていく。
サイズもぴったりで、嬉しいおみやげとなった。
時を同じくして磁石の埋め込みが終わったので、運転試験を行うことにする。プーリーベルトが少し短かったようなので、発電機の下に板を挟んで底上げして高さを調節する。それではいざ、発進である!
最初の運転
エンジンが始動したと思った瞬間停止した。エンストである。エンジンの回転数が安定するまでは負荷をかけないほうが良いことがわかったので、まずはエンジンを安定させてから、徐々にプーリーを接触させていくことにした。そして2回目の運転で事件は起こった。
2回目の運転
なんとローターに埋め込んでいた大量の磁石が飛散したのだ。シールドのために設けていたプラスチックのシートを画鋲で固定していたのだが、強度が弱すぎたためである。手で確かめた感覚だとこれでいけるのではないかと思ったが、甘かった。磁石の固定については慎重に考慮しなければならないと思っていたのだが、計算をしたわけではないので判断が難しいところではあった。
とんだ失敗であるが、飛散した磁石が天井にくっついていたり、逃げ惑う子供たちがいたりと辺りは笑いに包まれた。するとエマニュエル先生が、何か音がしたけどどうしたとやってきた。事態を説明すると、怪我がなくて良かったと真剣な顔をされている。確かに一歩間違えると重大な事故になりかねない事態である。現にラボの窓にはヒビが入っていた。
ガラスを破損
この失敗を受けて、プラスチックのシートを金属のものに交換すること、遠心方向の力がかからないように軸方向に釘を打つことなどの対応策を話し合う。金属のシートはオイル缶を切り開いて制作することにした。
切り開いた缶はヘンリーが叩いて伸ばしてくれた。
アルミ板を叩いて平らにする
このシートを横にのりしろを残した大きさに切っていく。
アルミシートを切っていく
のりしろを曲げてローターにフィットするように取り付ける。
シールドの取り付け
ここで時計を見ると時間は18時を回っていた。普段ならとっくにラボのメンバーは帰っている時間だが、今日は最後の日とあって皆付き合ってくれた。
シールドを取り付け終わったので分離テストを再開する。
金属の分離テスト
一円玉、釘をベルトコンベアの上に置いて最高回転数の時にそれらが動かされるか試してみる。途中、一円玉が跳ね上がって飛んでいったのを見て歓声が上がったが、それはベルトコンベアから脱落した1円玉がローターに弾き飛ばされたことに気づく。ローターとベルトの間のクリアランスを極限まで小さくしてみるなど、その後何度か条件を変えてテストを試みたが金属はついに動かされなかった。
最後のテストが終わり、部屋にはアブー、ヘンリー、そしてもう一人の生徒が残るのみであった。自分もアブーも放心状態という感じで、しばらく渦電流分離器の隣に何も言わずに腰掛けていた。するとエマニュエル先生がラボにやってきた。どうだった?と尋ねるので、クリアランス、磁石の磁力が弱いこと、磁場の方向が直線的でないことなど複合的な要因で金属を分離することができなかったことを告げる。
またコンベアベルトを動かしてみるが、こちらも製作精度の甘さが積もって余分にトルクがかかっており、滑らかには動いてくれない。
ベルトコンベアの駆動
とりあえずは動いたものの、これからこのプロトタイプを改変していけるという所に立てたという段階である。当初想定していたのは、このプロトタイプが如何に変わっていくのかというところだったが、とてもそんなところまで到達することはできなかった。磁石などの材料が手に入らないこと、CNCの突然の故障、そして停電など、数多くの事柄が積み重なり、予想以上に時間がかかってしまったが、これは途上国におけるものづくりの現状を知るための貴重な体験となった、
自分はエマニュエル先生にこう告げた。プロトタイプが機能するところまではたどり着かなかったが、この経験を通してガーナという国でどのような材料が手に入り、どのような機材を使うことができ、そしてどれくらいの時間がかかるか、などの大まかな感覚をつかむことができた。もちろんこのプロジェクトはこれで終わりではなく、これからより効率的で、役に立つものづくりをファブラボガーナで行なっていくための最初の一歩である。自分はこの経験を研究に反映して、これからも良い関係を築いて行きたい、と。エマニュエル先生も納得してくださり、今後の発展ための第一歩という形で今回のプロジェクトは幕を閉じたのであった。
エマニュエル先生には自分が先週末から構想していたソーラーCNCの話もした。TTI工房では旋盤などが使えるが、停電の際には機能しない。したがって、ソーラーセルでカーバッテリーを充電し、そこからステッピングモータの電力を取り出すCNCである。さらにこのCNCは折りたたみ可能でスーツケースの中に収めることができ、設置場所を選ばず、例えば屋外など、どこでも使うことができる。ガーナでは所望の大きさや形状の材料が手に入ることは稀であり、基本的に材料は加工することが前提となる。今回の滞在では木工CNCを使わせてもらうことが出来たが、安価な木材を材料としてCNCを用いて自由な寸法に加工することは、ボトルネックとなっている加工の速さと、材料の入手性という2つの問題を一度に解決できるので、とても有効であることを悟った。
日本に帰ったら、まずはこのCNCについて検討することから始めよう。