Work and work!

さあ、新しい週の始まりだ。週末は気分が乗らなかったが、気合を入れて行きたいところ。

朝ご飯を食べながらエマニュエル先生に、昨日は教会から何時に帰ったんですか?と尋ねると、それなんだよ、と笑いながら17時半くらいだと答える。昨日までは教会の仕事もやらなくちゃいけなくて大変だったけど、やっと終わって落ち着いたところだよ、とおっしゃっていた。学校の中から外から色々と仕事をされていて大変である。

さて、ラボに着くと今日の作業について皆で共有する。図面を見ながらドリルで空ける穴、底板、シャフトの長さなどを確認した。

準備が整うと機械科を訪れ、加工について先生に説明を行った。今日行うことを想定している加工内容は、

– マグネット保持パーツの曲げ加工

–  支柱プレートへの穴あけと曲げ加工

–  プレートのスロットの加工

–  木製ローターへの穴あけ

–  シャフトの切断

–  底板の加工

–  ベンチの組み上げ

である。

ちなみに先生に、昨日教会で君を見たよと言われた。先生もいらっしゃったんですね。

さて、まずはアルミニウムパーツの曲げ加工からだ。

曲げ機の使い方を教えてもらう

160個もパーツがあるのでなかなか時間のかかる作業だ。はじめは一度に10個くらい並べて試してみたが、精度が出ないのと逆に時間がかかることがわかったので1個ずつ行うことにした。

80個のパーツを曲げたところで、今度は残りのパーツを逆方向に曲げることにする。2個終わったところでアイザックが異変に気づいた。

「これって曲げ方向変えなくていいんじゃないの?」

アイザックがパーツを手に取り、組み合わせてみる。本当だ、パーツは160個とも全部同じ方向で大丈夫だ。じゃあこの2つを逆方向に曲げ直そう、と今曲げ終わったパーツを逆方向に90度曲げたところ、カキーン、という金属音がした。取り出してみるとアルミ板は割れている。やってしまった、とみんなで顔を見合わせる。アルミニウムは鉄に比べて降伏が早いので、この2個のパーツの修正は無理ということになった。パーツはきっかり160個しか切り出していないので最終的に2個少なくなるが、仕様にはほとんど影響はないだろう。

さて、並行して穴あけの作業を行う。

ボール盤で穴あけ

また、休むことなくスロットの部分をやする作業だ。やすっているとスティーブンが、違う違う、やすりはこうかけるんだよ、と見本を見せてくれる。やすりは両手で持って、水平に動かすのだ。基本的なことだが、誰に教わったこともないので非常に勉強になる。

やすりがけの指南を受ける 

アルミニウム板の穴あけが終わったので、木製のプレートへの穴あけに移ろうとすると、ボール盤のアームが短くてドリルが穴の位置に届かない。現在使っていない工作機械が置いてある倉庫に案内してもらい、より大きなボール盤を使わせてもらった。

大きなボール盤で木材の加工

みんなで休憩していると、支持台に使うための木材をスティーブン、ダグラス、ダニエルが担いで工房に持ってきた。それを見た機械科の先生は、「おいおい、今度は木工かぁ〜」と目を丸くしている。スティーブンが”なぜファブラボなのに”機械加工をやったり色々なことをやっているのか先生に説明しているのを見て、先生方の間でもファブラボはレーザーカッターや電子回路を駆使したものづくりの場という印象があることが垣間見れた。このプロジェクトはその限られた範疇だけに留まるのではなく、エンジニアリングのあらゆる部門を横断し、統合することを目指すのである。

さて、アルミニウムの加工を終えたところで、シャフトの切断とタッピングの加工に移る。シャフトを決められた長さで切断し、さらに旋盤とタップを使ってネジ穴を切るのだ。

金属切断用のバンドソーを先生が動かしてくれる。

スチールシャフトを切断する

水を加えながら切っていくと、刃が半分くらい入ったかな?というところで先生がいきなり機械を止めた。シャフトを取り出して何やら切り口を見ている。

先生は顔を上げると、この材料は一体なんだ?とアブーに尋ねた。鉄ですと答えると、これは炭素鋼じゃあないかと言う。どうやらこのシャフトはこの機械では切れなさそうだ。手で切れるか試してみようということになり、バイスで固定して金ノコで切ろうとするも全く歯が立たない。

「ダメだ、これは高炭素鋼だ。これは切れないから別のシャフトを持って来なさい。」

使用することを想定していたシャフトが使えなくなるのは予想外の事態だ。低炭素鋼であれば切れそうなので、同じ径のシャフトを町で探そうということになった。

さて、加工の作業は一段落したのでラボに戻ることにする。

加工した部品その1

加工した部品その2

一仕事終えてラボに戻る

宿舎に戻ると、隣に住んでいるアイザック先生に出会った。街灯がつかなくなったのでこれから修理するところだそうだ。そういえば、今朝部屋の電気がつかなくなったことも関係あるかもしれないと思い、部屋の電気の調子が悪いことを伝えると、見てくれることになる。

ドライバーでスイッチのカバーを外し、導線にドライバー当てて電圧が来ていることを確認する。ガーナにはLEDの点灯で電圧がチェックできるドライバーがあって便利である。そしてスイッチに問題があるようだね、と壁からスイッチを外して分解を始めると、壁からものすごい数のアリが出てきた。まさかこいつらが電流をブロックしてたのだろうか?その後スイッチを開けて床に叩きつけると砂埃がたくさん出てきたが、これが原因だねと言って息を吹きかけて砂埃を飛ばし、元通りに直してくれた。修理は無事成功だ。

また何かあったら声かけてね、とアイザック先生。さすがガーナ人、身近な問題は自分で解決しているようで頼りになる。

あと、良かったらどうぞとバンクーを昼ごはんに頂いた。

久々のバンクー

フフはあまり風味がしないので、個人的にはバンクーの方が異質さがあって風情を感じる。ただ、この酸味にはまだ慣れてないなあ。

昼ごはんを食べたあと学校の中を歩いていると、おーい、こっち来いよと声をかけられた。行ってみると、生徒たちがココナッツを割って食べている。

ココナッツを食べている生徒たち

そういえば野生のココナッツを食べるのは初めてだ。ぜひひとつ、ということで割ってもらう。

ココナッツの中。ジュースがたっぷり入っている

ココナッツの中身ってこうなってるのか。ジュースがたっぷり入っている。このジュースを飲むだけなのかな、と思って生徒たちを見ていると、ナタで外側の殻を割って白い果肉の部分を食べている。自分も割ってもらって食べてみると、濃厚な味だ。これがココナッツミルクの原料なのかと納得。

ところでガーナではココナッツは国を象徴する食べ物なのだろうか。料理にもよく使われているし、ココナッツがどうのこうのって書かれた選挙のTシャツっぽい服を着てる人を町で見かけたのを思い出した。

アイザック先生に食器を返しに行くと、飛行機が飛んでいくのが目に入った。タコラディには空港がある。今回の滞在ではほとんで旅行する機会はないが、タマレやクマシまで飛んでいってみたいなあと思いを馳せた。

飛行機が飛んでいく

さて、ラボに戻ると作業の続きだ。シャフトは明日買いに行く事にし、土台の部分を作る。

木工の作業

作業をしていると、「やあ、エンジニア〜たち〜」とご機嫌なエマニュエル先生が入ってきた。こっちは順調ですよ、と告げる。

部材を切り終わると、今日は6時半に停電するからここまでにしよう、と言われる。

あれ、停電の時間って決まってるの?と思い尋ねると、要は計画停電らしい。こっちに来てから計画停電は初めてだ。それとも自分が知らなかっただけなのだろうか。

片付けの作業をしていると、6時38分に電気が切れた。日本の感覚では8分遅れだが、おお、ぴったりだ、と思ってしまった。これについては特にガーナが時間にルーズということではなく、遅れて当たり前だと自分が思い込んでいるだけかもしれない。

確かにガーナに来てから時間の遅れを気にしたことはないなあ。同じ西アフリカでもマリでは時間を守らないのが当たり前だったが、あの体験が自分の西アフリカのイメージを形作っているのかもしれない。

12. 9月 2012
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ココンペ

ココンペ(Kokompe)は青空市場を意味する言葉で、特にタコラディではアクラステーションの近くにあるスクラップなどの鉄鋼や木材などが手に入る巨大マーケットを指す。

Fab Moduleのサイトにはkokompeの名が冠してあるが、すべての機械を操作できるというコンセプトと、何でも手に入るココンペをニールが結びつけて名付けたようだ。

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12. 9月 2012
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苦難の一日

今日は休日、エマニュエル先生の家族と一緒にピクニックに行こうと誘われている。

何時ぐらいに出かけますか?と尋ねると、 14:30くらいにしようと言われたので、ひとまず午前中は家で洗濯と、買い物をすることにした。

しかし家に帰ると断水だ。これでは洗濯ができない。水をためておけば良かったと後悔するが、仕方がないが洗濯はあきらめて町へ買い物へ向かう。

トロトロで町の中心部へ到着すると、早速電子部品店へ足を運ぶ。ツェナーダイオードを購入に向かう。型番を示すが、置いてないと言われる。

困ったなと思い、ゼナーダイオードを探しているんですがと言うと、何ボルト?と聞かれる。なんと、型番じゃなくてパーツの名前でも通じるのか。5Vですというと、ツェナーダイオードを取り出してくれた。一個20ペソだというので、では10個くださいと言うも、3個しか置いてないから残りは別の店をあたってくれと告げられた。

店を後にし、アブーに前回教えてもらったErnest electronicsを探すも見つからない。町をさまよっていると、別のelectronics shopを発見、中に入ってみる。ゼナーダイオード、5Vというとすぐに棚から出してくれた。会計をしていると店のオーナーに、一体何に使うんだい?と聞かれたので、マイクロコントローラへの入力電圧を制限したいんですと答える。ほう、そうなのかいと言われたが、マイコンが普及していないこともあり、あまり納得した様子ではなかった。CNCを作っていますと答えたほうが良かったかな。

部品は買えたので、洗剤など別の買い物へ向かう。コフィー・アナン通りにGrand mart(?)という店を発見したので入ってみる。内装は他のスーパーマーケットと比較して綺麗である。店内には中国人や、ヨーロッパ人らしき人もいた。アラブ系の食材(イエメンの噛み煙草っぽいものなど)が置いてあるのは、レバノン人が多いからだろうか。

さて、家へ戻って掃除などをしていると、時間は14時を回ったところだ。もうすぐ約束の時間だな、と思いつつベッドで横になっていた。14:30になるが、電話はかかってこない。もう少し待ってみようと思っていると、いつの間にかうたた寝をしていた。

起きてみると15:30だ。なにかおかしいな、と思いエマニュエル先生に電話をかけるがつながらない。もしかしたら急用ができたのかもしれないと思い、とりあえずラボに行って時間を潰そうかなと思いアブーに電話をすると、Connection refused.と画面に表示されたのを見てどきっとした。まずい、これは電話機の故障ということか?あるいはクレジットの残り残高が無くなったのかもしれないと思い、MTNに接続しようとすると拒否された。どうやらSIMが壊れたか、電話機自体が壊れている可能性がある。急いでキオスクに向かいクレジットを購入してチャージするも、MTNのサービスに接続できない。

思いの外時間がたっている。あっちも自分に連絡がつかなくて困っていることだろう。結局SIM自体を入れ替えることにし、キオスクでMTNのSIMをくださいというと、MTNは登録がめんどくさいからTIGOにしてくれと言われた。TIGOは登録済みのSIMを売っているようだ。使用者が未定なのに登録済みとはよくわからないが、とりあえず購入してエマニュエル先生に電話する。

すいませんでしたと経緯を説明すると、まあ仕方ないのでまた明日、と言われ電話を切った。

携帯は朝まで使えていたのに、なんという悪いタイミングで壊れるのだろうか。せっかく誘ってもらっていて、1週間前から楽しみにしていたこともあり、かなり落ち込んだ。

もう夕暮れ時であり、さらに前日にPCのACアダプタをラボに忘れてきたので、やることもない。何もしていないと落ち込むだけなので、ファンティ語の勉強をすることにした。ファンティ語の会話集を手にとり、チュイ語の辞書を使いながら文法を解読していく。両者は互換性があるといいつつも、語彙はかなり違うようだ。辞書はあまり役に立たない。

結局300個の例文を斜め読みして同じ単語をチェックしていき、英訳の部分と対応させてその語の意味を探るという力技をとることにした。なんとも非効率な勉強法だが、冠詞があることや、未来形、否定形、疑問形の文法はなんとなく解読できた。日常で使いそうな一般動詞を200個くらい覚えれば喋れそうな気がしてくる。

少し気分が回復し、勉強を進めているといきなり停電だ。弱り目にたたり目というところ。しかしここで負けるかと思い、LEDライトをつけて勉強を再開する。

LEDライトの灯りで現地語の勉強

自分で実際にLEDライトで勉強してみると、子供たちはどうやって勉強しているのか気になった。この灯りだと勉強するのはかなり厳しい感触だ。ガーナの子供たちは大変だなあ、日本は恵まれているなあと思いを馳せる。

ただ、これについては後日談がある。エマニュエル先生の息子のダラーリに、停電の時はどうやって勉強するの?と聞いたところ、停電の時はランプを灯して勉強するよという想定した答えが帰ってきた。自分の体験から、でもその灯りだけで本当に大丈夫?暗くない?と聞くと、

「夜勉強するのはいやだから朝起きて勉強してる」

という答えが返ってきた。当然といえば当然だが、使っているもの、インフラが違うと生活のスタイルも必然的に異なる。「夜勉強するための、より明るいLEDライト」が必要ではないかと実は思っていたのだが、もっとシンプルな解決策がここにあった。

さて、他の国の言葉を勉強していると、面白い響きの単語に出会うことが多い。

神様のことはオニャンコポンという。世代ではないが、おニャン子クラブみたいで親近感のある神様だ。Onyanというのが賢い、という意味のようだ。

なぜ?というのはエベナゼ、というようだ。似ていて覚えやすい。

久しぶりに文字とにらめっこしていたので疲れたようで、早めに床についた。

11. 9月 2012
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ミスコミュニケーション

今日はパーツの穴あけなどを行う予定だが、準備ができるまでにCNCの作業をすることにした。昨日少し早く帰ったこともあり、作業したくてうずうずしていたのだ。

ステッピングモータの回路をブレッドボードに組む。コードもX-Yモータを動かせるように改良した。

X-Yモータを動かす回路

ステッピングモータを回すが、うまく回らずに振動している。なぜだろう。

パルスの信号に雑音が入っていることを疑い、パルスの電圧が知りたいと思っていると、それならオシロスコープを使えばいいじゃないかと言われる。

そうだ、ここにはオシロスコープが置いてあるのだ。素晴らしい。

オシロスコープでパルスの電圧を測定

オシロスコープでパルスの波形を見ると、パラレルポートからの平常時の平均電圧が0.6V以上出ていることがわかった。これがマイコン側のデジタル入力の誤作動を招いているようだ。平常時の電圧はGNDに落としたいので、MOSFETを途中段にかませてスイッチングを行うことにした。ただし、注意しないといけないのがパルス電圧の最大値だ。オシロスコープで見ると、最大でパルス電圧は60V以上出ている。ここでMOSFETの2SK2545のデータシートを見ると、ゲート電圧の許容値は4Vとある。これに60Vをかけるのはまずい。

60Vのパルスを5Vでカットオフするためにはどうしようと考える。こういうMOSFETの使い方は初めてだ。普通はレベルコンバータ使うのかなと思ってデータシートを見ると、5V-3.3Vの変換が主な用途のようだ。いや、5Vに降圧するDC-DCコンバータを使えばいいんじゃないか、と思っていると、三端子レギュレータでいいじゃないか、とアブーが7805を取り出してきた。そうだ、それでいこう。

早速回路を組んでいると、スティーブンがラボのドアから顔を出して何か言っている。

「機械科の工房、もう閉まっちゃうよ」

一瞬沈黙した。あれ、工房が使える様になったら教えてくれると思っていたのだが。

慌ててアブーに確認する。朝は生徒がいるから工房を使えないと思っていた。こっちは使えるようになるまでCNCの作業をして待ってたつもりだったんだけど、と。

アブーも、そうなの?それは知らなかった。CNCをやり始めたから今日はこれやるのかなと思って手伝ってたよ、という。

これには少し焦り、次の様に伝えた。いや、優先順位は分離器の方が先だ。あっちをまずやろう、と。

じゃあ急いで機械科に行かないとね、もう閉まってしまうかもしれないし、となり、CNCの作業を中断する。時間は12時を回ったところだ。

これはとんだミスコミュニケーションだ。確かに今まで少しスティーブンに頼りすぎていたかもしれない。このプロジェクトは自分が責任を持って遂行しなければならない、という意識が薄くなっていたように思う。

段取りが二転三転するなどうまくいかないことは多いが、こんなものだからとあきらめてはいけない。自分が変えられるところはどんどん主張していかないとダメだ。この一件は大きな教訓になった。

さて、昨日のアルミ板を持って機械科に移動だ。昨日加工した2mmのエンドミルも持っていく。機械科に到着すると、昨日の先生にボール盤を貸して下さいとお願いをする。

この2mmのエンドミルはドリルチャックにはまるでしょうかと尋ねると、それだと弱そうだからこのドリルビットを使いなさいと2.5mmのビットを貸してくれた。

 ボール盤で穴あけ

さて、並行して別パーツの切断およびケガキ作業を進める。ドリルの穴あけと切断は出来たが、支柱の穴あけは工房の閉館までに間に合わなかった。この間たったの2時間だったが、工房とラボを行ったり来たり、まさに駆け抜けた2時間であった。

ラボに戻ると、手作業でのアルミ板の切断だ。アイザックとダニエルがリズムよくアルミ板を切断する。

 アルミ板を切断する

100枚くらい切り終わったところで、疲れたでしょうと言って交代した。

切り粉まみれになって切り続ける 

ラボを訪れた女性(おそらく先生)が、ひたすら金属板を切っている自分たちを見て、ええと、ここはベーシックワークショップ(一般作業工房)だったの?という。何やらアブーをからかっているようだ。アブーが少し間をおいてから、マダム、ここはファブラボですよと答える。先生らしき女性が、だってファブラボってもっと電子工作とかやるところでしょ、とからかうと、アブーが再び

We’re FabLab. We make almost anything.

と言い放った。へえ、という感じで肩をすくめて先生は去っていった。そうだ。ファブラボはなんでも作る場所なのだ。

そうこうしていると、160枚のパーツを切り出すことができた。かなり汗をかいた。ずっとノコギリを握っていたので、しびれて手が握れない。

少し疲れたので宿舎に戻り、休憩することにした。チョコパイを食べて手にとって食べていると違和感があることに気づいた。手に何かついている感触がある。ふと手元を見ると、アリが指にまとわりついている。え、なんで?と思ってチョコパイを見ると、アリだらけのチョコパイを食べていたことに気づいた。アリが出たり入ったり、もはや巣みたいになっている。何十匹アリを食べたのか知らないが、明日起きたらスパイダーマンになってたり、あるいはザムザみたいに変身していないことを望む。開封した食べ物は缶に入れるなどの処置が必要だということを学んだ。アリの多さは気になっていたのだが。

さて、ラボに戻るとCNCの作業の続きだ。三端子レギュレータでパルス電圧を5Vに降圧してMOSFETをスイッチングし、MOSFETの出力をマイコンに入力するように変更した。

パラレルポートからパルスを送ると、動いている。しかし動作方向が逆だ。何でだろう。

もう一度オシロを見てみよう、と三端子レギュレータからの電圧を観測すると常に5V出ている。ああ、やってしまったことに気づく。三端子レギュレータは常に出力電圧を一定にするものだった。今やるべきことは5Vで電圧をカットオフしたいだけで、平常時の電圧を昇圧したいわけではない。

こういうとき何を使うんだっけ、と調べていると、そうだ定電圧ダイオードってあったな、あれが使えるんじゃないっけと思いつく。定電圧ダイオードは別名ツェナーダイオードという。どうやらこれが使えそうだ。

ツェナーダイオードある?と聞いてみると、あったかもしれないと棚を探してくれる。ちなみにこちらでは、というか英語圏ではツェナーダイオードは「ゼナー」ダイオードと発音するようだ。

取り出してもらったものの型番を検索すると、high speed diodeとある。つまりはショットキーバリアダイオードのようだ。ラボにツェナーダイオードは無さそうなので、またタウンに行った時に買おうということになった。ただ、手に入るのだろか。

今日はもうパーツが無くて作業ができなさそうなので、雑談をしていた。

まずは設計したCNCについて。設計したときは完璧だと思っていたCNCだが、実際に作ってみると無駄なスペースが多いことに気づいたという。確かにスピンドルの支持や台座の高さはもっと低くできる。CNCを放置していたのも、このような設計の改良点に多く気づき、気持ちが少し萎えたからだとも言っていた。気持ちはわかる。

また、マイコンを使ってこんなプロダクトを作りたい、というアイディアも披露してくれた。

・自動開閉式のゲート

ガーナでは自動開閉式のゲートはほとんど存在せず、クラクションを鳴らすと入り口にいる警備員が開けてくれる。これは一般的な企業がとっている方式だが、これだと警備員がいない会社ではタクシーなどが勝手に入ってきて迷惑することがあるという。

よって、電波などの無線を利用して固有の周波数を発振し、受信機がそれを感知して自動的にゲートを開ける、というシステムを考えたそうである。

・停電時の自動窓開閉装置

停電時には会社などでは発電機が起動する。発電機により電力をバックアップする際は、ACなど大電力を利用する装置はOFFにして他の最低限の装置の供給に回したい。つまり、発電機が起動したら自動的にACの電源を切り、更に窓を自動的に開くという機構を作りたいとのことだ。逆に電力が復帰すると窓が自動的に閉まり、ACの電源が入るという算段だ。ガーナの建物の大半はスライディングウィンドウなので、ボールねじをつかえばDCモーター一個で複数の窓を開閉できるので経済的だともいう。

どれもガーナらしい着眼点で面白いプロダクトだ。もちろん、これにはアブーの嗜好が多分に入っていることは間違いない。実際、自分はオートメーションが好きなんだとも言っている。

自分が目指しているのは、インフラのない場所でも利用できるような技術である。それは当然会社向けの技術とは異なってくる。したがって、何でもかんでもマイコンで自動化することには、正直に言ってためらいがある。村では電気が手に入らないことが多いからだ。

しかし、現にこのような自動化というニーズがガーナで暮らすアブーから出てくることは見過ごしてはならない。アブーの作りたいと言っているプロダクトは、企業での利用や産業的な用途を目指しているとしても。

やはりものをつくるときは、誰のために、という前提が重要なのだろうと当たり前の事実を再認識するのであった。

こういう自動化のプロダクトってガーナで売ってる会社はないの?と聞いてみると、会社じゃないんだけど、一人やってる人がいると教えてくれた。名前をSafo Kantankaさんというらしい。

ホームページを見てみると彼は発明家であり、ガーナではなかなかの成功者のようである。教会も建てたそうだ。

ファブラボでもこのような発明が生まれてくることを願うのであった。

08. 9月 2012
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アブーの帰還

朝扉を叩く音がする。開けてみると、アブーだ。ついに帰ってきた。

久しぶりの再会を果たしたのも束の間、状況を報告する。今日AudioCraftに行けそうか、と尋ねると先方から送られてきたメールを見せてくれた。

The spindle is off. There’s so much to do.

どうやらマシントラブルがあったようだ。アブーはこれからAudioCraftに向かって修理して来るという。1時間かそこらで戻ってくるというが、無事に治ればよいのだが。

今日の朝食はククだった。前回よりも飲みやすい。クスをセットで食べるのがアザッソ家の方式らしい。エマニュエル先生は甘いクスはあまり好みではないようだ。

今日はまずLinuxCNCが同梱されたUbuntuをインストールしたい。空のCDある?とダグラスに聞くと、買いに行くから朝ごはん食べるまで待ってて、と言われる。しばらくしてTTIを後にし、お店へ向かう。

TTI最寄りの本屋、A-Z bookshop

この店は、こないだファンティ語のテキストを探していたときに寄った店だ。 無事にCD-Rを購入。

ラボに戻り、ブート用CDを作成してUbuntuをインストールした。 起動してみると、LinuxCNCもインストールされている。

また、並行してスティーブンと一緒にエマニュエル先生に昨日のプロポーザルを持っていく。無事に受理され、校長先生に提出してくれるそうだ。

さて、作業をしているとアブーが帰ってきた。 どうだった?と聞くと、かなり悪い状況だとの返事。スピンドルモータを修理していたら、回路をショートさせてしまったようで動かなくなったとのこと。

想定はしていたが、難しい展開だ。準備していたCNCでの加工はできなくなった。

急遽、対応策をみんなで話し合うことに。話し合いの結果、木材を使わずに金属を使うことになった。ただ、フライホイールの利用を想定していたローターの車輪には、先と変わらず椅子の天板の椅子を使うことに。

どうやってマグネットを支持するか、という点についてはアブーが知恵をだしてくれた。このようなパーツを作ればいいと言って厚紙を切り始めるアブー。設計上のコンセンサスを取る上で、この紙を使った方法は非常に有効だ。より早く、より簡単にイメージを共有することができる。

厚紙を切って部品を造り立体のイメージを共有する

方針が決まったので、あとは部品の切り出しだ。使える部品を洗い出そう、と言って材料をかき集める。大きなアルミ板と、鉄製のシャフト、あとベアリングが集まった。

鉄のシャフトとベアリングを集める

ファブラボに置いてあったアルミ板を使う

さて、 部品の切り出しには図面が必要だ。切り出す図面をプリントアウトしてくれないかな、その前に設計の変更が必要かな?と言われる。

いや、再設計は断じてダメだ。寸法の変更はあるとしても、これ以上CADの書き直しで無駄な時間をとりたくない。木製のプロトタイプの寸法を使えばいいと思う、それをプリントアウトするから待っててくれといってCADを開くが、もともと寸法を入れるつもりがなかったので、ライノの3dmファイルには寸法が表示されていない。急いで図面に寸法を入れ、またマグネット保持用の鉄パーツを設計した。そしてICTラボでプリントアウトを行う。

ところで、ICTラボでプリントをしているときにふと気づく。はて、簡単な2D図面でしかもマニュアル加工なのになんでCAD図面が必要なんだ。手書きのスケッチでもいいじゃないか、と。CADで作業していた30分が無駄のように感じられてテンションが下がったが、まあ仕方ない。どうすれば効率的に進めることができるか、これまで以上に注意を払っていこう。

さて図面も上がったので、実際の加工に移る。アルミ板の加工には部品図のケガキ(マーキング)が必要だ。ケガキ針ある?と尋ねると、ファブラボには置いておらず、機械科にあるとのこと。スティーブンがケガキ針と、あと直角定規を機械科から借りてくると言ってラボから出ていった、

しばらくするとスティーブンがPCを携えてラボに戻ってきた。借りるもののリストをメモとして作っていきたいので、もう一度借用品を教えてくれという。

メモを作成するスティーブン

いいよと伝えるが、はて、必要なのはケガキ針(スクレーパ)と直角定規(トライスクエア)の2つのみだ。メモをとるまでもない。しかもPCを使っているのを見て、さっき設計図をプリントしていた時のことが脳裏をよぎる。「なんでパソコン取り出してるんだ、手書きのメモでいいじゃないか」すかさずスティーブンに「手書きのメモでいいんじゃないの?」と言ってみる。スティーブンはうなずきながら、こう説明してくれた。機械科に行ってきたら、エマニュエル先生名義での借用を請求する書類を持って来なさいと言われた。なので今から書類を作ってエマニュエル先生からサインを貰い、機械科に提出するのだと。その言葉には驚きを隠せなかった。

「たかがケガキ針と直角定規を借りるのになんで書類が必要なんだ」

いちいち上司の許可が要るとは外務省のツイッターじゃあるまいしとは思ったが、仕方がない。ここが国立の教育機関であることを忘れてはいけない。ファブラボはオープンな工房だが、TTIではファブラボはその一部だ。ファブラボを一歩出ると、そこは普通の高校である。

スティーブンは書類を仕上げるとエマニュエル先生の元に向かっていった。しばらくして戻ってきたが、機械科はもう閉まっていたので借りるのは明日になるとのこと。 本当にものづくりには時間がかかるものである。

一応一段落したので、今日はお昼ご飯を食べよう。あまり遠出したくないので、以前コーラを買った近場のお店に向かう。フライドライスありますか?と尋ねると、うちはアチャキ(?)しかないよ、という。フライドライスを食べたいならここを真っすぐ行った奥のお店、というので行ってみると、内装が心持ちちゃんとしたお店を発見。

こんな近くにフライドライス屋が

フライドライス、と店のおばさんに伝えるとおばさんは厨房に入っていった。この店は見た目はファーストフード店っぽいが、オーダーしてから作るようである。メニューを見ていると、他にもビーフやタコのフライドライス、Rice and stewなどがあるようだ。特にRice and stewはまだ食べていないので、今度試してみたいところ。

ところで注目すべきが、店内に置かれた大きなスピーカー。重低音のかかった音楽を流している。タコラディじゅうで聞くこの音楽は、いったい何というジャンルなんだろう。教会からも聞こえてくるから、ゴスペルの部類に入るのかな。とてもリラックス出来る曲である。ただこの店では1曲が延々と繰り返されていたのが気になった。

しばらくしてお店のおばさんが出てきた。フライドライスの価格は6セディ。

久しぶりの豪華な食事

最近の食事はジョロフライストチキン、フフと魚、のように良く言えば素材の味を生かした、率直に言えばあまり調理した感のないものしか食べていなかったが、フライドライスがこんなに美味しいと感じるとは驚きだ。ガーリックとペッパーが利いているし、チキンもスパイシーだ。食べ物を食べるだけですべてを忘れることができる、何とも幸せなひとときだった。

さて、腹ごしらえを終えるとCNCのドライバ製作の作業だ。部品をスーツケースから出して準備をしているとアブーが寄ってきたので、あのCNCのステッピングモータ、アブーがいない間に動いたよと伝えると、「本当に!?」と目を丸くしている。AVR使ったの?というので、うん、Arduinoとトランジスタアレイで作った、と伝える。百聞は一見にしかず、ということで回路を組んで前回と同様に500Hzで回転させる。アブーはすごいうれしそうだ。それもそのはず、自分が設計したCNCのモーターが初めて動いたのだから。
あとはLinuxCNCを使って パルスを生成して、それをAVR側に解読させて励磁信号をトランジスタに送ればいい、ということを説明する。PCとCNCの接続まではもう少しだ。
PCとドライバ回路の接続にはパラレルケーブルがほしい。両端がD-Sub25のコネクタになっているパラレルケーブルを探すが見当たらない。どうしようと思っていると、アブーがこれで作ればいいとフラットケーブルとD-Subのコネクタを持ってきてくれた。

万力でクランプしてパラレルケーブルを自作する

日本ではケーブルが無くなったら秋葉原に買いに行こうとなるが、ここファブラボガーナではケーブルは自作するものだ。確かにパラレルケーブルとはいえ、言ってしまえばただの電線だ。原理・仕組みを理解していれば、ないものは作ることができる。日本での生活では機械の中身は箱のなかに隠されており、それは一方ではストレスを感じることなく製品を利用することを可能にするが、そのような環境では逆にものの成り立ちを知ることが難しい。原理を知ること、仕組みを知ること。ガーナでの体験に学ぶことは大きいのであった。

さて、次はパルスを解読する回路をどうするか。少し外を散歩しながら考える。

励磁モードは4パターンだから、最初のパルスが入力されたら4階層深いループに入り、次にパルスが来たらブレイクして1階層上のループに入り、というのを繰り返したらどうか、と考える。これでもいけそうだが、なんか汚いコードになりそうだ。ここでふと、もっと単純なアルゴリズムに気づく。現在の状態を変数として保持しておいてswitch-caseで条件分岐し、ブレイクする前に変数の値を更新すればいいだけだ。

おお、どうやら先が見えた、もう後はコードを書くだけだ。特につまづくところもなく、手早く済ませる。

そしてLinuxCNCのStepConfウィザードから信号テストの画面を呼び出し、試しにX方向のステッピングを試す。すると…動いた!PCからステッピングモータを駆動したのは自分も初めてなので、感動した。

アブーにPCから制御できたよ、と伝える。ただ、今の状況だと方向を制御していないのでステッピングモータの回転は一方向だ。回転方向を制御するには、方向制御のパルスを検知した時に逆転の励磁をかければよい。これもコードの修正はすぐにできる。

PCにつないで再度LinuxCNCから逆転を試すと…これも成功だ!よし、うまくいった。これでCNCを完成させるめどが立ったと満足する。

ステッピングモータはこの辺にして、次はXBeeだ。これについては先日から手をつけていない。いろいろ調べるうちに、かなり重要なことを忘れていることに気づいた。XBeeのATモードとAPIモードの区別だ。自分は受け取った信号をそのまま透過するATモードを使って独自の通信規格を作ろうとしていたが、ArduinoにはAPIモードを使った際のライブラリが提供されていることを知る。これを使わない手はない。

ATモードからAPIモードへの変更は、X-CTUを使った設定の変更が必要だ。しかし、ここで思わぬ落とし穴にはまってしまった。XBeeに現在書き込まれているファームウェアの読み込みができないのだ。解決策を求めてネットを検索すると、X-CTUを更新することで治るとの情報があったので試すがうまくいかない。

試行錯誤していると、アブーがお祈りがあると言って出ていった。モスクまで行ってお祈りをするようで、わざわざ出かけていくのは大変だなあと思った。バングラデシュでは会社の中で床にござを敷いて上司がお祈りをしていたものだ。

アブーが帰ってくると、時間はもう20:30である。片付けをして帰ろうと思ったが、ここでふと、前から思っていた疑問をアブーに尋ねてみた。いったいガーナ人は一日に何食食べてるの?みんな昼ごはん食べてないみたいだから朝晩の2食?と聞いてみると、笑いながら、大抵は3食だよと答える。ただ、色々作業をしていたりして時間がないと食べないことも多い、という。もちろんそういうときは普通にお腹は減っているらしい。なるほど、納得である。

07. 9月 2012
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