This is engineering.
さて、今日はついに本格的な加工に入ることができる。
ラボに着くと、早速スティーブンがケガキ針を借りてきてくれた。まずは切断する部品のマーキングだ。切断する部品の共有をすべくみんなで集まる。こういう部品が必要だ、とプリントアウトした図面を見せ、 定規で位置を測ってケガキ針で印をつける。
ここでアブーが言った。少し寸法が大き過ぎないだろうか?もう少し高さを短くすれば、無駄が少ない。確かにもう少し小さくてもよさそうだ。この変更によりローターの円周が減少するので、80個の磁極が配置できるかどうか検証しなければならない。少し待ってて、とノートに手計算を始める。
ここでアブーがちょっと来て、という。スティーブンが何か思いついたようだ。アルミ板は厚みがあるので、今まで両側に2枚ずつ設けていた板を、1枚ずつにすれば材料が削減できるという提案だ。なるほど、アルミ板は剛性があるのでその改良はありだなと思う。
するとパーツはL字型になる。待てよ、そうすると対照形にすれば長方形のブロック1枚から2枚のパーツが得られるはずだ。そう提案するとアブーが、いや、その加工は不可能だ。ノコギリは一方向にしか入らないので、加工中に90度進路変更するのは無理だ、と言う。そうだそうだ、すぐにツールパスが頭に浮かぶのはさすが機械屋だなぁ、見習わなければ。
スティーブンも同じ疑問を持ったようで、なんでそうしないんだ、と同じ事を言う。だからプラズマやレーザーで切るんじゃないんだって、とアブーがまた厚紙をカッターで切って実演を始めた。口で納得させられなければ、厚紙を使う。それがここの作法なんだな、と興味深かった。
さて、設計変更を了承し、新たな部品の寸法が明らかになった。さて、あとはケガキ作業だ。
定規でマークした位置をつないで直線を引いていく。
けがき作業を行う筆者
こんな感じの直線を引いていく
みんなでけがく
ケガキが完了した。広い板をけがくのは割とエネルギーの要る作業だ。
さて、 次はこれを機械科に持っていく。機械科の工房(メカニカル・ワークショップ)にアルミ板を持って移動した。
機械科の先生方には昨日の午前中に挨拶とプロジェクト説明に伺っていたので話が早い。早速機械を準備してくれた。
金属の切断機。大きい。
ここでどのように切るのかを先生に伝える。すると何やら先生の顔が曇った。
アルミ板の端っこに、不要な部分として切り落とすマージンを設けていたのだが、これはマシンの刻み幅より小さくて切れないという。ケガキ方向を変えてこい、と先生が言っているようだ。
またケガキ作業を行うのは体力的にも時間的にも無理だ。本当に無理なのか?そう思って、そのマージンは無視してスパン方向に60mm刻みで切ってもらうのは駄目ですか?と言ってみる。つまりはケガキを無視する作戦だ。
そうすると、ケガキを無視するならそれでもいいという事になった。実はこの機械は最初に定めた切断長を自動で送る機構がついており、長手方向に同じ長さで切断する分にはケガキは実質的に不要だったことになる。なんということだ。
ここでも自分が言い出さなかったらまたケガキ作業を行うところだった。やはり、気を抜いてはならない。どうすれば効率的にできるかを常に考えるのだ。
スティーブンがアイザックは機械科なんだから指摘するべきだよと言い、アイザックは照れ笑いを浮かべている。
さて、同意がとれたので機械を動かし始める。金属板がいとも簡単に切断され、床に落とされていく。金属の切れる音はなんとも爽快だ。
この切断機のコントロールは足もとのフットスイッチで行う。機械科所属のアイザックがこの作業を買ってでた。
アルミ板の切断を行うアイザック
切りだされたアルミ板
なんとも簡単に切断を行うことが出来た。
つぎは、このパーツをL字型に切断する作業だ。ケガキ位置が変わったので、もう一度ケガキ作業が必要だが、これはまたしんどい作業になりそうだ。すると機械科の先生が、これ使うといいよとゲージがついたケガキ針を貸してくれた。おお、ナイス。これで作業が効率化する。というか、これは書類なしでも貸してくれるのね…。
さて、ラボに戻って新しいケガキ針を使ってケガキ作業を行う。これは早い。機械科のプライドが芽生えたのか、この作業もアイザックが先陣を切ってやりはじめた。
新しいケガキ針で作業の効率化
そして並行してL字型に切り落とす作業を進める。バイスを借りてきてアルミ板を固定し、ノコギリで切り落とす。
アルミ板をワイルドに切断する
切り出したパーツを見てアブーがちょっと待って、という。切り落とした後のパーツにはドリルで穴を開ける作業が必要だが、この状態だとドリルで穴を開けるのが難しい、という。そこでまた機械科に行ってドリルの穴を開けてから切り落とそうという事になった。
そしてその穴あけに使うドリルの話になる。ドリルビットには2mmを使うことを想定していたが、ラボには2mmはあったっけ?と棚を探す。するとモデラ用の2mmを発見した。だが、このミルは切削用なので先端が尖っておらず、穴あけには不向きだ。グラインダでエッジを落としてドリル用に改造しよう、とアブーが提案した。
切削用ミルのエッジを落としてドリル用に改造する
機械科に着くと、ちょうどドアから先生が出てきたところだった。スティーブンが、加工したいんですけど、と言うと軽く首を降っている。あちゃー、どうやら今ちょうど閉まったところのようだ。
ということでまた明日来ることに。こういう風に穴を開けたいんですと説明し、センターポンチを貸してもらう。
機械科からラボに戻る道すがら、最年少のオベッドが機械科に置いてある機械を思い出して「あんな機械みたことないよ、本当にでかいなあ」と独り言をつぶやいている。それを聞いたアブーが、「大型船のエンジン見たことある?このバスぐらいあるよ」と言う。オベッドは信じられないという顔をしていた。
ラボに戻ると、今度は支柱など残りのパーツの切断についてのミーティングだ。
図面を広げてミーティング
支柱となるパーツは木材を想定していたが、金属に変更したので若干の設計変更が必要だ。2枚のアルミ板の間に木材を挟み込み、中の木材でベアリングを固定することで合意した。また、他にもシャフトに開けるタップの径、ドライブシャフトに必要な溶接についても確認をした。
さて、ミーティングも終わったので部品のマーキング作業の続きだ。流れ作業で部品を回していく。トン、カンというハンマーの音が心地よい。白雪姫の小人たちのハイホーが聞こえてきそうだ。
ケガキ→マーカーで印をつける→センターポンチという流れ作業
ガーナ人は音楽が大好きだ。ラボでも誰かしらスピーカーで音楽をかけている。
音楽をかけながら楽しく作業
かかっている音楽はヒップホップ、R&Bが多い。驚くべきはオベッドが体を揺すりながらラップを口ずさんでいたことだ。NYのバスで小学生がRun D.M.C.のIt’s trickyを唄っているのを聞いてアメリカにはかなわないことを悟ったと言っていた日本のラッパーがいたが、同じような感覚だ。
楽しく作業していると、学校帰りの生徒たちがファブラボを代わるがわる覗いていく。
ファブラボ何やってるの?と覗いていく生徒たち
ラボに立ち寄った生徒が、思わずThis is engineering.と漏らしたのが印象的だった。そうさ、これがエンジニアリングなのだ。
さて、部品のマーキングは終わった。マーキングし終わったアルミ板でポーカーの真似事を始める一同。とことん陽気である。
加工は明日に持ち越しなので、昼ごはんを食べよう。昨日のフライドライスがあまりに美味しかったので今日も同じ物を注文してしまった。
昨日と同じフライドライス
うん、さすがに2日目同じ物を食べると昨日ほどの感動はなかった。
ご飯を食べていると、自分のMac book airから音楽が流れている。オベッドがfacebookをやりたいというのでPCを貸していたのだが、通信速度が遅いのか飽きたのか、自分のiTunesをいじりはじめたようだ。この子は本当に音楽が好きなだなあ。ちなみにオベッドはJourneyのSeparate waysと大黒摩季のら・ら・らが気に入ったようだ。
遅めのお昼ごはんを食べ終わると、アブーと一緒に電子パーツを探してタウンへ向かう。マーケットサークルを一人でうろうろしてもわからなかったが、やはりわかりにくい場所だった。これは一度連れて行ってもらわないと無理だ。
HブリッジのTA7291Pが手に入るか聞いてみようとするが、アブーはこれはさすがにないんじゃないかな、という様子。でも、TAと書かれた棚があることに気づく。あそこの中にあるんじゃないかな、と一応店の人に聞いてみると、あった!アブーは、マジで?、すごいと驚いた様子。海を渡ったTOSHIBAのパーツがガーナで手に入った瞬間であった。
海を渡ったTA7291P
ちなみにガーナで電子部品を買いに行く時は型番がすべて。これぐらいの耐電圧のトランジスタ、とかいっても出てこない。
あと、パーツは日本よりも高い。TA7291Pは一個4.2セディだったが、日本で買うと150円である。ちなみにファブラボガーナでは電子部品は購入リストをシェリーに送ると、シェリーがDigi-keyで購入して送ってくれるそうだ。ガーナで買うと高いというので、わざわざDigi-keyを使うこともあるそうだ。ガーナでの電子部品の価格が高いのは、輸送コストと需要が少ないことが背景にあるのだろう。
ラボに帰ると、CNCの作業を再開する。回路のイメージは代替できており、AVRチップ2枚でX,Y,Z軸とスピンドルを駆動できる目算だ。
ステッピングモータのリード線が短いので、ケーブルを延長するためにハンダ付けを行う。アブーが何か見慣れない機材を使っているので、それ何?と聞くと、フューム・エクストラクタだという。
ハンダ付けを行う
煙を吸い取る機械なのだろう。これがあれば一人暮らしの家で焼肉ができるかも、と思ったりした。
おっと、ここでまた停電だ。時間は18:00を回ったところとまだ少し早いが、こうなると作業はできない。家路について明日に備えることにした。
プロジェクトのてこ入れ
今日はアブーに会うことができるのか。そしてAudioCraftでCNCを動かせるか。
滞在も2週間を経過した。そろそろプロジェクトをスムーズに動かしたいところだ。
期待と不安が錯綜するなか、ラボへ向かう。
ラボへ着くとスティーブンが早速話があるという。もちろん自分のプロジェクトについてだ。
確認すると、先週の土曜日以降、メインプロジェクトは完全にストップしている状態だ。プロトタイプの設計は終わっているが、AudioCraftでの切削加工はアブーがいない現状では進めることができない。
そんな状況に置かれたこのプロジェクトをどう進めていくか、話し合いたいと言ってきてくれた。まずはアブーがどこにいるのか教えてくれないかというと、アブーとは連絡がつかない状態で、タコラディにいるのかアクラにいるのかもわからないという。
今はプロトタイプを一刻も早く完成させるのが先決だが、アブーの所在がわからない現状では打つ手立てがない。分離器が完成した後の粉砕機の話を並行で進める提案も考えられたが、タスクが分散するとプロジェクトの収拾がつかなくなるので辛抱した。スティーブンがアブーにもう一度確認をとってくれるという。
しばらくするとスティーブンが戻ってきて、アブーと連絡がとれたという。今タコラディ行きのバスに乗ったそうだ。だとすれば今日中にはタコラディに戻ってくるだろう。
帰りは当初日曜日の予定だったので喜ぶところではないが、一応の朗報である。今日中にAudioCraftに行ける可能性もある。
スティーブンからもう一つ提案があるという。このプロジェクトのファンディングは基本的に自分が行うつもりだが、FabLabや学生を巻き込んでいることからも、学校側にもファンディングのお願いをしようということだった。これについてはエマニュエル先生から校長先生の方に話をつけてくれるそうで、その際にはプロジェクトの内容と、経費がどれだけかかるのかを示す必要があるということだ。つまり、プロポーザルを書くことになった。学校側からファイナンス面でのサポートを受けられるのはこちらとしても有難い。
さて、スティーブンとはその2点を確認して作業に戻った。メインプロジェクトについて今動けない状態なので、サブプロジェクトというか、他にできることを進める。
今日はCNCのステッピングモータを動かしてみる。昨日思いついたTA7291Pを2つ使った回路を組んで、Arduinoを使って電源を投入する。すると、動いた!
CNCのステッピングモータが動いた!
これはうれしい。マイコンを使っておらず、ドライバICがないこのラボではステッピングモータを動かしたのは初めてではないだろうか。中華9Vスイッチング電源も役に立った、1000Hzだと若干トルクが弱く、脱調気味であるが、500Hzだと安定している。400パルスで1回転するので、この場合の1秒間の回転数は1.2回転だ。この速度は少し遅い。
調べてみると、Arduinoのdelay関数にはdelay_loop1のような刻みを細かく指定できる関数があるようだ。これを使うともう少し好ましい周波数を探ることができそうだ。とりあえずはこれで良しとする。
モーターの動作確認はできたので、次はG-CODEからパルスを生成するソフトウェア環境を構築する。ソフトウェアにはLinuxCNCを使うため、インストール方法を探っていると、LinuxCNCの使用にはリアルタイムカーネルが必要だそうだ。調べてみると自分でビルドするのは大変だが、あらかじめLinuxCNCが入ったUbuntuパッケージが提供されていることを知る。ラボのWindows端末の一つにこのUbuntuを入れてデュアルブートで使うことにしよう。
しかしLinuxCNCが入ったUbuntuは700MB近くある。この容量ではモデムでのダウンロードは不可能だ。ボーダフォンで行うしかない。ということでLinuxCNCについては後回しにした。
昨日設計したMOSFETモジュールをダグラスに手伝ってもらいながら切削する。cam.pyの使い方は全く未知の世界だ。EAGLEからCAM Processorを起動し、デバイスをGERBER RS274Xにしてジョブを実行するとcmpファイルが生成されるが、これをcam.pyから読み込むのだということを知った。道理で昨日brdファイルが読み込めなかったわけだ。
cam.pyで編集するダグラス
MODELAの裏技らしきものも教えてもらった。言葉では説明しにくいのだが、切削途中にVIEWボタンを押してプロッタを待機位置に移動すると、前回送信されていたデータがMODELAの誤作動を招く。このときVIEWボタンが点滅しているが、UPボタンを長押しするとVIEWボタンの点滅が消えて正常状態に復帰する。
原理が全くもって不明だが、これで治るとは一種のマジックだ。
Wordのテンプレートなど使ったことなかったが、見た目を綺麗にしてみようと思い使ってみた。
プロジェクトのプロポーザル
記載すべき事項は概要、経費、スケジュール、図面などであるが、最も重要なのは必要な予算である。大体こんな感じかな、とできたものをスティーブンに見せる。するとスティーブンからアドバイスがあるという。学校側がかかるコストをすべて負担してくれることはまずない。半分もいかないだろう、おそらく4分の1といったところではないだろうか。彼らが見るのは中身よりも総額である。つまりは、常識的な範囲で多少総額を多めになるようにしておいたほうが良いだろうとのことだ。まあ、どこの誰でも考えることではある。
プロポーザルを書き終わるとHardware centerにプリントアウトに向かう。エマニュエル先生もいらっしゃったので、完成したプロポーザルを確認してもらった。学校側には明日話をしてもらえるようだ。
さて、事務的な作業が終わったので開発に戻る。アブーは結局今日は来ないだろう。ということで、午前中に検討していたCNCソフトウェアをダウンロードするためにボーダフォンに行く事にする。データのダウンロードのために町まで出ないといけないのは一苦労だ。
TTIを出ようとすると、遅くならないようにと守衛さんに言われたので1時間か1時間半で帰ります、と伝えてトロトロに乗り込む。 今日のトロトロにはバックミラーにポムポムプリンがぶら下がっていたのが印象的だった。
久方ぶりのポムポムプリン
ボーダフォンに着くと、1時間の券を買って早速LinuxCNCをダウンロードする。ダウンロードの必要時間はちょうど1時間だ。間に合うのだろうか、と思い30分くらい経ったところで30分延長したいと受付に申し出る。延長の券を売ってくれたが、これがどうにも機能しない。店の人が何回か試したが、駄目である。1時間分のセッションが終わったらもう一度ログインし直してくれと言われたので、ダウンロードが進行中なんですというと、そういうことか、という様子。まあ多分時間内に終わるから大丈夫だよ、と言って受付に戻っていった。結果的にはぎりぎりで間に合ったのだが。
ボーダフォンを出ると、辺りは真っ暗だ。このボーダフォンが位置するCape coast Rd.はものすごい速度で車が飛ばしているので、横断するのには注意が必要だ。ダッカのMohakhaliを貫く通りも横断には一苦労だったが、こっちのほうは交差点がない直線なのでトップスピードは格段に上だ。大型のトレーラーがすごい速度で横を通り過ぎ去っていくのには緊張する。
晩御飯は近くのレストランに入って食べた。
フフと魚のスープ
店を出た瞬間、溝にはまって肝を冷やした。小さい溝だったが、やはり気をつけないといけない。
トロトロに乗るべくLiberation Rd.に向かうが、夜とあって道がわからない。そういえば夜にサークル周辺を歩いたのは初めてだ。やけに真っ暗なことに気づき、たぶん停電しているんだろうなと思う。そうこうしているうちに、何とかLiberation Rd.のトロトロ下車地点にたどり着く。ここで問題なのが、トロトロは降車場所は分かるが乗車場所がわからないということ。そもそもこの時間に北行きのトロトロがあるのだろうか、と思っているとサークル行きのトロトロが到着し、客が降りている。全員が下車し終わるとすぐに別の客が乗っているので、もしや折り返し運転するのではと思って運転手にTTI行く?と聞いてみると乗れという。なるほど、この路線のトロトロは全く休憩をとらずにシャトル輸送しているのか。トロトロの仕組みが分かったのは収穫だ。
TTIの門を通ると、守衛さんがベンチで横になった寝ていた。横を通り過ぎようとすると、今帰ったんだ、と声をかけられる。はい、というと1時間で帰るって言ってたじゃないかと言う。もしかして門限があって、扉を開けて待っててくれたのかな?すいません、トロトロを捕まえられなくて、と言うと、そうだったのかと言う。おやすみなさいと告げて家へ向かう。
家へ向かう道は完全に真っ暗だ。なんだろう、何やらエンジンの音がする。回転数は高くないが音が大きくなることから近づいてくるようだ。しかし姿が全く見えない、車か?まずい、このままだとぶつかる、と思わず手に握っていたLEDライトでアピールする。10mまで近づいた時に2人乗りの原付だと分かった。ライトを点けていないので、あやうくぶつかるところだったが、万事休す。映画で言うと戦闘機に向かって撃たれたミサイルが近づいてくるような感覚だった。
千石電商で買った100円のライトが役に立った。夜の出歩きには懐中電灯は持っていたほうがいい。
家に戻るとご近所さんが外に出ておしゃべりをしていた。家の中よりも外のほうが明るい。”Ghana, always light off” だそうだ。
問題発生?夜のファブラボへ
土曜日、少し遅めの朝食を頂いてラボに向かう。
エマニュエル先生はお葬式があるそうで、礼服のような服を着ていた。
今日の作業は、ヘンリーのプロジェクトであるラジコンボートのコントローラのプログラムを書くことだ。
XBeeの生存確認をするべくループバックテストをしてみると、無事成功だ。続いてArduinoを使ってシリアルデータを送信するファームウェアを書くことに。
ArduinoがSerialクラスでサポートするRead関数はシリアル信号を1バイトしか読み取らない。よって複数データ(メインモータ回転数とサーボ角度)を送信するにはソフトウェアモデム的なものが必要だ。大した仕掛けではないが、<<スタートバイト、回転数、区切り文字、角度、ストップバイト>>というシリアル文字列を転送する規格を設計してプログラムを書いた。
ここまでを終えると、時間はもう15時だ。今日中にマーケットで9Vのスイッチング電源などを手に入れたいので、TTIを後にする。
家に外出の準備に帰るとヤギがいた。
マーケットサークルの周りではパレードをしていた。何かはよくわからなかったけど。
太鼓とトランペットによる演奏にしたがって踊りながら行進する。アフリカ人の踊り方が好き
まずはショッピング。おすすめと噂のパームベーカリーに寄ったが、まあ普通の食パン屋だったので何も購入せず。スペシャルがおすすめのことだが、もしかするとなんかすごいのが出てきたのかな。
続いてスーパーで蚊取り線香を買った。パッケージが薬品っぽくて怖い。色々あって迷ったが、英語表記と仏語表記があるやつにした。ちなみにミロのチョコレートがあったので買ってみたが、中身がめっちゃ小さくてびっくりした。コンソメみたい。そして、固い。チョコレートというか、ミロの粉末を固めたもの。
ミロのチョコレート
小ささがお分かりいただけただろうか
そして遅めのブランチ、今日はBocadillosというレストランで。
内装はおしゃれだ。フライドライスとチキン、飲み物にパッションフルーツのアルバロを頼んだ。
落ち着いた店内
アルバロはジュースです
フライドライスといったらドライカレーが出てきた。これはいける
ローカルの食堂に比べると量は少なめだが、味は美味しかった。
さて、今度はスイッチング電源だ。こないだサークルの周りを歩いていた時に台車の露店で売ってるのを見かけた。記憶を頼りに散策する。
なかなか見つからないと思っていたところ、売っている人を発見。
9Vの電源を見つけたが、25セディと言われて絶対ふっかけてるだろと思い、いらないといって後にする。まあ相場がわかったから次の店で買おうと思っていると、全く見つからない!確かに用途としてはPC用のACアダプタだろうし、PCを町で売っている店というのはないので当然といえば当然かもしれない。しまったなあと思い、一周して元の店に戻る。日も暮れかけているし、こっちが買いたいのをあっちはわかっているので交渉は完全に不利(というか交渉の気力もなく)、多少値切って23セディで購入する。
しかしこの中国製のスイッチング電源、動くかどうかすごい不安だ。なぜか2箇所に入力電圧の記載があり、一つは100-240V、もうひとつは100Vとなっている。ガーナの電圧は240Vなので100Vしか対応していない場合、繋ぐと壊れる可能性がある。また、会社名のところにSAMSUNG ESECTROMECHANICSとある。エレクトロニクスではなく、エセクトロニクス。似非だって自分で公言してるし。これについては明日試すこととしよう。
似非だと白状している(赤線部)
ちなみにマーケットサークルの周辺には排水口だろうか、溝が掘ってある。わき見をして歩いていると、この溝に転落しそうになって危ない。アフリカでは人に絡まれて危険な目をするよりも、マラリアなどの疾病や自動車にひかれる、このような溝に転落することの危険性の方が大きいように思う。
ラボに戻るには少し時間が遅くなったので、家に帰ってネットサーフィンをしていた。すると、アクラとタコラディのみがガーナにあらずと言っている人を見かける。それもそうだなと思い、ロンリープラネットをめくりながら、ガーナについて調べることに。
と、ここで扉を叩く音がする。誰だろうと思って開けるとスティーブンが立っている。そしてこんばんは、と日本語でのあいさつ。
どうやらラボの鍵を貸してほしいそうだ。何かありそうなので、一緒にラボに行くよと家を後にする。
話を聞いてみると、ラボにポロシャツを取りに行きたいという。というのは、TTIの副校長(副校長は3人いる:academic, administration, domestic)が明日参加するイベントでTTIのロゴが入ったポロシャツを配る予定らしく、その製作をスティーブンが申し付けられていたという。
しかしスティーブンは同僚の奥さんのお葬式、両親の世話などで全く手が離せずダグラスに仕事を頼んでおいたようだ。確かにダグラスは昼過ぎまでラボにいた。
ダグラスが仕事を仕上げているといいが、とスティーブン。今日中に副校長の家に持って行かないとトラブルになる、と。ラボに到着し、錠を開けて中に入る。
夜の学校。学校の怪談が流行っていた昔はすごいテンションが上がったものだが。
しかしそこにあったのは、ロゴがプリントがされていないポロシャツたち。スティーブンが思わずため息をもらす。
そういえば朝ダグラスがスティーブンともめていたのを思い出した。塗料が入っている棚の南京錠の鍵が見当たらない、といっていた。どうやら鍵がないと塗料が使えないのでと帰ってしまったようだ。
スティーブンが言う。なぜ自分に連絡してくれない。エマニュエル先生だったら鍵を持っているかもしれないのに。
自分もどうしていいかわからないので、とりあえず錠を切断しようか?と言ってみる。
いや、アイザックに明日やってもらうように頼めるかもしれない、とスティーブン。アイザックに電話をする。 どうやら頼めたようだ。
その後ラボを閉め、副校長の家に2人で説明に向かった。副校長の家は教員宿舎の目の前である。
副校長は恰幅の良い人だった。経緯を説明すると、わかった、明日の14:30までに仕上げてくれ、ということで事なきを得た。
良かった良かった、と思いながら副校長の家を後にした。スティーブンに家はどっち?と聞くと、ああ、同じ方向だよと言うので自分の家の方へ向かう。言ってなかったけど君の家の上の階に住んでる、あれが自分の家の窓だといった。なんだ、同じ屋根の下だったのか。確かに教員宿舎だから当然といえば当然だが(エマニュエル先生は別の棟に住んでいる)。
休日もマイペースに働いてます
朝起きたあと、10月に京都で開かれるシンポジウムの発表原稿を完成させる。
思ったより時間がかかり、もう昼前だ。そろそろアイザックが学校に来る時間だから鍵を開けにラボに向かおう。
アイザックはまだ学校に来ていなかった。朝も食べていないので、昼ごはんを食べるためにTTIの外へ。あまりこの辺で食べたことはないが、目立つ看板を出している食堂があるのでそこへ向かった。
フライドライスある?と聞くと、やってないようだ。ワチェがあるよ、と近くにいた少年が言う。そういえばワチェってよく聞くけど食べたことがない。なのでワチェを注文してみた。1つ50ペソだけどいくつ?と言われたので「?」と思いつつ、じゃあ2つ下さいと伝える。向こうで食事中のおじさんがまあ腰掛けなよ、と手招きしてくれてるのにしたがって店の中へ。
ワチェ(お米と豆の炊き込みご飯)
しかしガーナで入った店の中でもなかなかローカルな店だ。砂利が入っているのはローカル度を測る指標だな、と思いながら砂利を噛み潰す。そういえばこういう掘立て小屋の食堂はバングラデシュにもあったなと思い出す。たまたま通りがかったバングラデシュ人の同僚が自分が食事をしているのを見て、「何てとこで飯食ってるんだ。俺でも腹壊すから食わないのに」と言われたのは印象的だった。
それにしてもさっきの1つ50ペソと言ってたのは何のことだろうと思っていると、肉らしき塊が2つ入っていることに気づく。食べようとするが、硬くて噛めない。スジというかもはや骨だ。まさかこれを食べるんじゃないだろうな、と思って目の前で食事しているお兄さんの皿を覗くと同じ物が入っている。でも、お兄さんも残しているのを見ると、これは食べ物じゃなくてダシを取る牛骨的なものだろう、そう思って食べないことにした。
お勘定を済ませて立ち上がると、女将さんがなんで残すの?とさっきの塊を指さしている。そこで初めて「え、やっぱりこれが50ペソ分の肉だったのか?」と気づいた。硬くて食べられませんでしたと言うと、そう、ごめんなさいねと言われる。たまたま硬い部位だったのかな。この女将さん威勢がよくて好きだからまた来ることにしよう。
ラボに戻ってしばらくするとスティーブンが来て、そのあとアイザックが到着した。そして昨日のポロシャツを完成させるべく作業を始めた。
自分の作業を始めると、エマニュエル先生から電話だ。自分はいないけど、昼ごはんを食べに来なさいとおっしゃってくれる。多分これは夜ご飯になりそうだ。最近は1日2食を続けているが、それを12時と13時に食べるのだから我ながらすごい食生活だ。
相変わらずジュリーの料理は美味しい。ガーナのフライドチキンは、ケンタッキーみたいに油がしたたる感じではなく、もっとカリッとしている。最初はもっと水っぽい方がいいと思っていたが、今は逆にこっちが好みだ。無駄に油が含まれておらず、ヘルシーな感じがする。
ランチなのかディナーなのかわからない食事から戻ると、昨日買ってきた9Vのスイッチングの電源を使ってステッピングモーターを動かすための回路を組むことに。MOSFETはあるかな、とパーツ棚を探すとお望みのNチャンネルMOSFETを発見した。しかし、棚を開けると表面実装部品だ。少し残念、このままではブレッドボードで使えない。
日本にいるならMOSFET実装用のPCBをすぐに設計してMODELAで切り出すところだが、ここのラボではいまドライバの関係でMODELAが使えないんだよなあ。Ubuntuマシンにドライバが入っているそうだが、ログインパスワードを聞いていない。
しょうがないのでMOSFETにジャンパ線をハンダ付けすることに。
ここで述べておくと、ファブラボで今使っているハンダごての先は欠けている、というか盛大に折れている。秋月電子のお兄さんにハンダごてはコテ先が命、と吹きこまれた自分には耐えられないハンダごてだ。こんなこともあろうかとマイハンダごてを持ってきたのだが、240Vから100Vに降圧するための変圧器をかませると温度が十分に上がらない。仕方ないのでラボのハンダごてを使っているのが現状だ。日本で買っても1000円そこらだから、ガーナでもそんなに高くないだろう。一本買ってきて贈呈しようかな。
さて、ハンダ付けを行うものの、やはりこのハンダごてではうまくいかない。何回かトライしてみるものの、ダメだ。よし、やっぱりMOSFETボードをEAGLEで設計して明日MODELAでつくろう。ということで作戦変更、ヘンリーのモーターコントローラのテストを行うことに。
ここで停電。大音量で音楽を演奏していた近くの教会からもアンプの音が消え、聴衆の”Oh, no”という声が聞こえた。
そういえば、このTTIでは放課後の夕方から夜にかけて少人数の生徒に授業が開かれている。日本でいう定時制、夜間学校のようなものだろう。夜、停電する中で教室の横を通ると、懐中電灯一つの明かりで先生が授業を行なっている。なんという光景だろう。蛍の光、窓の雪とはいうけど本当に窓の外では月の明かりが停電した教室を照らし、ホタルの光が草むらでかすかな光を放っている。
家に帰ったらEAGLEでの回路設計と、Rhinocerosでの部品の修正をすることにしよう。
ガーナに来たことによる考え方の変化
まだ途中だが、備忘録的にメモ。
行く前と行った後で自分の考えの変化の差分を見てみたいが、途中経過も必要だろうということで。
(1)設計図なしにやみくもにやる→✕
ここでは材料は貴重な資源だ。材料を無駄にしないためにも、試作であってもきちんと設計してからでないと切り始めない。自分が「富豪的プログラミングのハード版」と思っていた設計の枠組みは修正を迫られた。
インドのJugaat、タイでの野生のエンジニアリングのように、やってるうちに適応する、というのは時系列をさかのぼって設計の流れをマクロに見た時の話だろう。少なくとも設計者視点ではなさそうだ。
またここではCNCルーターをはじめとするデジタルファブリケーションが使える、という特殊な前提も考慮に入れる必要があった。寸法はきちんと出さないといけないのだ。
(2)ネットで知識を共有できる→△
ネットで調べることができるのはその通りだ。回路図など、ネットを検索して参考にしている。
ただし、(a)回線速度が遅いこと、(b)頻繁に停電することを考慮に入れていなかった。
ファブラボは原理的にはポリコムによる遠隔通信による技術サポートをうたっているが、ガーナの回線ではスカイプも厳しい状況だ。インフラの増強策として、Fab-Fiが使えないか検討している。また、生徒が動画コンテンツによる学習を進めているが、これも容量の軽いGIFアニメなどで代替できないか考えている。
(b)の停電は思ったより深刻な問題だ。電気が切れると工作機械はもちろんハンダも使えない。PCもUPSでしばらくは持つが、ルーターも切れるのでインターネットは遮断される。自分の想定していた知識共有システム(iwrapper)のありかたも、デスクトップではない、何か別の媒体を考える必要がある。バッテリで駆動できるタブレットか、はたまた別のアナログよりの媒体か。