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雨上がりのN-1ロケット打ち上げ
先週金曜日の打ち上げ試験時に機体の一部が融けてしまったので、再度3Dプリントする必要がある。土日は大学のものづくり工房が閉まっているので自宅でプリントすることに。 本日は仕切り直しでN-1ロケットの打ち上げが予定されているが、あいにくの雨模様で午後には土砂降りになった。チームには打ち上げの明日以降への延期を勧告するも、午後5時を過ぎてから晴れ間が見えたため、明日は更に天気が悪くなりそうなことを踏まえてチームと話し合い、本日の打ち上げを決行することになった。 打ち上げに必要な項目を確認する。 いよいよ打ち上げカウントダウン開始。 今回はロケットが姿勢を崩さずにまっすぐに飛んだ!しかしパラシュートは最高地点で開かずにそのまま落下。ロケットは地面に叩きつけられた。 学生たちがしばらく間をおいて着地したロケットの回収に向かう。回収したロケットから飛行記録データを吸い出して確認すると、最高到達高度は地面から32mの位置だった。着実に進歩していることがわかる。 電装班の学生たちの話によれば、最高到達地点の検知自体はできているようである。パラシュートが展開しなかった問題はあるが、推進系、電装系、機体系の統合というN-1ロケットのコンセプトは検証できた。これでプロジェクトは次のステップに突入である。
N-1ロケット打ち上げに挑戦
本日は固体ロケットモータ(SRM)の燃焼試験とN-1ロケットの打ち上げが予定されている。 ものづくり工房から運動場に移動して実験を実施する。 燃焼試験の結果から、燃焼室圧力は前回の破壊時に比べて十分下がっていることが確認できる。メンバーたちは一度ものづくり工房に戻って実験結果を解析し、エンジンを機体にとりつけたのち、運動場に戻ってくることになった。 工房に戻ると、塗装を終えた機体の組み立てを学生たちが行っていた。 先程の試験結果より、到達予想高度は60m程度と計算された。余裕を持って許容限界の120m以下であるので、打ち上げはGOサインとなった。あらためて運動場に集結し、打ち上げに向けた準備を開始する。今回は観客も10名程度集まっていた。 打ち上げ手順にしたがって、打ち上げ責任者の学生が指揮をとる。 どうやら点火しない様子である。しばらく待ってから発射台の状況を確認をすると、点火装置が動作不良を起こしているようだった。点火装置を別のものに交換し、再度打ち上げに挑戦する。 白煙が上がったものの、ロケットは発射台から動かない。学生たちが状況の確認に向かった。 発射台の周りで議論している学生たちに状況をたずねると、ノズルから噴出した高温のガスが安定翼を融かしてしまい、ロケットが発射台にくっついたために離陸できなかったと教えてくれた。次の打ち上げでは発射台と機体の間にクリアランスを設け、燃焼ガスによる温度上昇を防ぐことにした。 本日中の修正は難しいので、月曜日に改めて打ち上げに臨むことに。打ち上げの見学に来てくれた工学部長が最後に学生たちを激励してくれた。「次のイーロン・マスクを目指せ」とのありがたいお言葉をいただき、学生たちは来週の再挑戦に向けて修正を行うことになる。
ケニアでコーンシロップを探せ
前回のモータ破裂事故を経て、KNSUだけでなくKNDXやKNSBを燃焼として検討することにした。KNDXはデキストロース、KNSBはソルビトールを燃料に用いる方式である。KNDXは以前のFクラスモータの試験時に着火しなかったため検討の選択肢から外していた。ここで気づいたのだが、そもそも我々はKNSBをテストしたことがないではないか。 学生たちになぜKNSBを検討しないのかたずねてみたところ、ソルビトールがケニアでは手に入らないのだという。北米でロケットを自作している連中はソルビトールとしてコーンシロップを使っているが、ケニアではコーンシロップが売られていないらしい。そうなのかと思いつつも、食品科学の先生たちに尋ねると、ソルビトールは試薬屋で入手可能だという。連絡先を教えてもらったところ、通常バルク(270kg単位)でしか売っていないが、特別に1kgあたり300シリングで売ってくれるとのことであった。 KNSBは燃焼特性がフラットなので、現在使用中のKNSUに比べて安全であり、長期的にみて期待できる燃料である。あとは確実に燃焼を開始させることができるかが鍵となる。 推進班の学生たちは早速KNDXの着火性を試す実験をしていた。相変わらず手を動かすのが速い。 いちおう両者とも燃焼しているが、やはり着火性が悪く、直火であぶらないと燃焼が開始しなかったとのこと。SRMのケーシング内で燃焼を開始させるために、ブースター入りのKNSUをイグナイターとして用いて燃焼室圧力を急激に上昇させる計画だと学生たちは話していた。
N-1モータの破壊についての分析
分析 酸化鉄(III)の添加により燃焼率が26%程度上昇した可能性がある(KNDXを用いたNakkaの実験を参照) 燃焼室の定常圧力は燃焼速度に比例するため、したがって燃焼室圧力も最大で26%程度上昇したと考えられる。openMotorのシミュレーションでは燃焼室のピーク圧力は2.81MPaと計算された。これは酸化鉄を付加しない場合の値なので、酸化鉄を付加した実際の燃焼室圧力は2.81*1.26=3.54MPa程度と推定される。 3.54MPaはPVCパイプの引張強度から算出した燃焼室の許容圧力である11.25MPaよりもまだ低いため、これだけでは破断に至らない(PVCパイプの引張強度は45MPaと仮定)。 上記以外の燃焼室圧力上昇の要因として、イグナイターがノズルスロート部を塞ぎ、有効ノズル径が小さくなったことが考えられる。ノズルのスロート直径を10.5mmから徐々に下げてopenMotorのシミュレーションを繰り返したところ、ノズル直径が6.5mmのときにPVCパイプが破壊に至ることがわかった。実際には燃焼促進剤の酸化鉄を付加しているので、これよりも大きな値(7mmとか8mm)で破壊に至った可能性がある。 今後について 燃焼室圧力を下げるためにグレインの分量を少なくする イグナイターによるノズルの閉塞を防止する 学生がノズル効率を高めるために提案したワッシャーのノズルへの装着(ノズルスロートの侵食を防ぐ)は安全性に疑問が残る。これは仮にPVCが再び破裂した場合、燃焼ガスで加速されたワッシャーが弾丸のように飛散するためである。ワッシャーつきのノズルは少なくとも安全性が確認されたモータに用いることとする。 KNSBの利用の検討を勧める。実際NakkaもPVCモータにはKNSU/KNDXではなくKNSBを使えといっている。下図のようにKNSBはKNSU/KNDXに比べてフラットな燃焼特性をもつため、同じトータルインパルスに対して低いピーク推力を示すことになり、より安全である。
N-1モータ燃焼試験(4th trial)とモータの破壊
ロケット初打ち上げの余韻に浸る間もなく、学生たちは開発を続けている。 今日は打ち上げではなく燃焼試験をする計画だという。お昼前頃に試験実施のアナウンスがあったので、いつもの場所へと向かった。 またもや点火システムの不具合で、なかなか燃焼が開始しない。どうやら電池は2個よりも1個がベターのようだ。 3個くらいイグナイターを駄目にして、ようやく燃焼が始まった。 前回よりも明らかに推力の高まりを感じる。モータの片方の端を抑えているセメント製のノズルが宙を舞った。数秒後にカランカランという音がし、ものづくり工房の屋根に破片が落下したことを悟った。 2機目はラバールノズルつきのSRM。同様のサイズなので嫌な予感はするが、2機目は1機目よりも燃焼圧力が低くなる計算だとの報告を聞いて、2回目の試験に臨むことに。 SRMの構造が圧力を支えきれずに破裂した。車の防犯アラームの音が辺りに鳴り響き、ワークショップの技官たちが集まってくる。今はロケットの燃焼実験をしているところで、次回からは別の広い場所(運動場)で実験すると伝え、了解してもらった。 テストスタンドは木っ端微塵に粉砕されていた。 以下がモータ破壊時のスロー再生映像。防護のためのアクリル板を突き破って手前側にSRMが飛んできているのが分かる。あとで回収したところ、30mほど吹っ飛ばされていた。 推進班に事故原因の究明を指示する一方で、以下の方針を決定した。 Static testはものづくりセンターの中庭ではなく運動場で行うこと 今回のモータの飛散距離30mを考慮して、Static testの実施時には安全半径30m以内に立ち入らないこと 次回の試験は今回のモデルより小型化すること。燃焼室圧力を落とし、ノズルで性能を補償すること 安全メガネの着用の徹底。EN166規格対応の安全メガネを購入する。 以下はテストスタンドが記録したデータ。 1回目は200Nを超えたところでノズルが吹き飛び、破壊には至らなかった。ノズルが安全弁(リリーフバルブ)の役割を果たしてくれたといえる。2回目は底板が破断しており、またロードセルの測定限界(200kg~2000N)を超えているために、この値に信頼性は無い。いずれにせよ、1回目に比べて10倍以上の推力が出ており、なんらかの要因により、設計値以上に燃焼室圧力が高まったことがうかがえる。