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オンライン講義での試行錯誤
先日始まったケニアの大学PAUSTIにおけるオンライン講義ですが、色々と試行錯誤が続いています。 第2週では前週の3D CADによるモデリングに続いて、PCB CADを用いたプリント基板の設計についての講義を実施しました。
オンライン講義はじまる
日本の多くの大学では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響でオンライン講義が実施されていますが、アフリカでも同様の状況が生じています。 筆者は普段はケニアの国立ジョモ・ケニヤッタ農工大学(JKUAT)に勤務していますが、COVID-19の影響で日本に一時帰国しています。JKUATではメカトロニクス工学専攻の修士課程を対象としたCAD/CAMの講義を担当しており、PAUSTIの大学院でも製品設計に関する講義を担当しています。PAUSTIとは正式名称をPan African University Institute for Basic Sciences, Technology and Innovationといって、アフリカ連合が設立した大学院大学PAUの一端を担っています。 このPAUSTIの講義が2020年の3月から授業が始まる予定だったのですが、同時期にケニア国内の大学を含む全ての学校がCOVID-19のために閉鎖となってしまいました。現時点では9月1日の大学再開を目指して準備が進んでいるそうですが、このたび遠隔にて授業を行うことになりました。
学部生研修5日目
ロボットアームのプログラミング(続き) 今日も朝早くから来て、前日からの課題であるロボットアームのプログラミングに取り組んでいるものがみられた。 Simulinkを用いたArduinoのプログラミング このセッションでは、前日時間が足りず取り扱えなかった、SimulinkによるArduinoのプログラミングについて学習した。SimulinkはArduino Support Packageを追加することで、プログラミング(Arduino ROTH: Run on the hardware)およびシミュレーション(External mode simulation)が実行可能である。制御器設計において重宝する機能であり、是非説明しておきたかったため、最終日のタイミングで解説した。 実習で用いた回路はポテンショメータの取得電圧を指令値とするDCモータのフィードバック制御回路である。2つのDCモータの回転軸を連結し、片方はタコメータとして使うことで、タコメータの両端の端子電圧を回転速度に対応付け、フィードバック制御を行う。以下にSimulink上のブロック線図を示す。 最終日は十分に実習時間がとれなかったため、どのグループもモータは回せたものの、タコメータからの電圧が取得できずにフィードバック制御を行うことができなかったグループもあった。しかしながら、Simulink上のシミュレーションを実世界のアプリケーションで動かすためのワークフローは学んでもらえたことと思う。 ロボットアーム選手権 この研修の総まとめとして、3チームの中の最優秀チームを決定する選手権を行った。以下のルールによってポイントを加点し、最も得点の多いチームが優勝である。 得点を与えるルール(6点満点) 1. 初期状態から旋回する(1点) 2. アームを曲げて、対象物体まで接近する(1点) 3. 対称物体を把持する(1点) 4. アームをもとに戻す(1点) 5. 逆方向に旋回する(1点) 6. 対象物体を解放し、設置する(1点) 試験に先駆けて、各チームは制御の細かい修正に取り組んだ。ロボットアームのプログラムはチームによって様々であった。以下に一例を示す。 また、4人で同時にロボットアームの制御を行うチームもいた。見た目は少し笑ってしまうような光景だったが、実は実際的な利点もあると思った。他のチームはシリアル通信で制御コマンドを送ったときに、Arduinoの受信側に遅延時間を入れていたので、複数の軸を応答させようとすると、どうしても遅延が発生してしまう。これに対して多数端末による制御を用いれば、遅延時間を考えずに複数軸を動かせるというメリットがある。また、制御するホストコンピュータを1台にしてしまうと、その端末が駆動するArduinoに信号雑音が乗ったときに、全てのサーボが影響を受けてしまう問題もある。彼らは複数の端末から操作することでノイズによる影響を分散させ、せっかく掴んだ物体を離してしまうとか、意図しない急旋回をもたらしてしまう可能性を排除するための、冗長化を構成していたともいえるだろう。 選手権の結果を以下に示す。 どのチームも全てのタスクを完了したので総得点は並んだのだが、チームによってはタスクを最初から最後まで連続してこなすのではなく、断片的にタスクを遂行したものもあった。連続してタスクをこなした場合、追加点を与えることになり、最終的に全てのタスクを一気通貫して完遂したチームが優勝となった。 以下の優勝チームの試行動画をみると、タスクを達成したときの学生の歓喜、熱気が伝わってくることと思う(リンク: https://youtu.be/vUtjoPJynyE )
学部生研修4日目
ロボットアームの組立とプログラミング このセッションでは前日に引き続き、ロボットアームの組立を行った。前日にグルーガンで接着した箇所を剥がしたいのだが、半田ごては使えないか、という質問を受け、実際に試したところ、アクリル板にダメージを与えずに綺麗にはがすことができた。アクリル板とグルーガンは、プロトタイピングにおいて非常に良い組合せであることを知れたのは、筆者にとっても新たな学びであった。というのも、普段筆者はアクリル板の接着には専用の接着剤を用いているため、グルーガンを試した経験はなかったのである。アクリル接着材は剥がす際にアクリル板にダメージを与えることもあるので、熱することで流動性を再度高められるグルーガンには利点がある。そもそもケニアではアクリル接着剤が手に入らず、グルーガンは容易に調達できるという背景があったのだが、これも現地の状況に応じて工夫することで見つかった新たな発見であると言ってよいだろう。 組立が終わった後は、実際にプログラミングを開始した。なかにはC++のクラスをつかってコーディングを試みるものもおり(電気電子工学科の学生)、結構プログラミングが得意な学生もいるのだな、と感じた。 MATLAB実習 本セッションでは、数値計算や工学一般において様々な活用が可能なプログラミング環境であるMATLABについての初歩的な使い方の解説を行った。 まず、講習に先駆けて、学生にはMATLABの30日評価版のダウンロードとインストールを要請していた。これについて補足すると、MATLABのライセンスはJKUATは保有していないようである。したがって、この研修を受けた後に学生がMATLABを使えなくなるとあまり意味が無いため、以下に示すいくつかの代替オプションを提示した。 代替ソフトウェア 利点 欠点 GNU Octave MATLABとコマンド互換 (ほぼ同じコマンドが使える) Simulinkに相当する機能がない Scilab & Xcos Simulinkと同等のXcosというソフトウェアが付属する。XcosはさらにArduinoとの連携も可能である。 MATLABとコマンド名が異なるため、コマンドを覚え直さないといけない Python ipython, numpy, matplotlib等を組み合わせることで、Matlab同様の数値計算・グラフ描画が可能。また、python-controlパッケージを入れることで制御シミュレーションも可能。拡張性、汎用性は最も高い。 Simulinkに相当する機能がない OpenModelica Simulinkのようなモデリングが可能 筆者が使ったことがないため、詳しく知らない 講習ではMATLABがデータを扱う際の基本的な構造であるベクトルと行列を説明し、転置やインデックスでのデータ要素へのアクセス方法を説明した。そして、線形連立方程式の解を、係数行列をつくって行列操作で求める方法を説明した。この際に、その都度逆行列を求めるのではなく、ガウスの消去法を使うことで高速に解を計算できることを説明した。 また、伝達関数の定義方法と、ステップ応答やインパルス応答、周波数応答(ボード線図)などの基本的な制御シミュレーションの方法についてもここで解説した。 Simulink実習 Simulinkの使い方は、今回とりわけ教えたかった項目の一つである。制御に興味を持ったものの、どうやってブロック線図を計算機シミューレーションに落とすのか、そしてその先にマイコンにどのように実装すれば良いのか、というのは初心者が最初に悩む点である。たとえプログラミング能力が卓越していても、実際にブロック線図とマイコン用のCの実装を行ったり来たりするのは面倒であるのだが、Simulinkを使えば、シミュレーションから実機での実行までを、単一のブロック線図のみでシームレスに扱うことができるのである。このセッションでは、Simulinkの簡単な使い方と、PID制御のシミュレーションまでを取り扱うこととし、実習を行った。 ロボットアームのプログラミング(続き) MATLAB/Simulinkの講習が終わった後、この日も結局18時過ぎまで、参加者はロボットアームのプログラミングに励むことになった。
学部生研修3日目
Arduinoプログラミング実習 本日の研修では、マイクロコントローラを制御するためのプログラミングを学んだ。Arduinoと呼ばれる8ビットのマイクロコントローラを利用し、プログラムの開発環境としてArduino IDEを用いることで、機械設計によく使われる制御要素のプログラミング技術を習得することを目的とした。 ほとんどの学生が一応Arduinoを触った経験はあるようで、難なく進めることができた。余談であるが、iPICにあるArduinoボードはArduino UNO(5台)、Arduino Mega 2560(5台程度), Arduino Mega ADK(7台程度)である。ボードはケニア現地で調達したと見られ、どれも純正品ではなく、中国製のコピー品である。Arduino Mega 2560と包装された箱のうち、半数以上がArduino Mega ADKであったことには閉口した(プロセッサ自体は両者とも同じものを使ってはいるが)。経験的に多くの場合コピー品でも問題なく使えるが、3台ほどシリアル通信できないボードが存在した。そのうち1台のArduino Mega2560に対してAVR ISP mkIIプログラマーを用いてATmega16u2をシリアルUSBブリッジ化するファームウェアの書き込みを行ったが、そもそもSPI通信ができないようで、チップ自体の破損か基板上に配線不良があると思われる。 このセッションではPWMを用いたLEDの連続的な光量制御、A/D変換によるポテンショメータ端子電圧の読み取り、FETを用いたDCモータの速度制御、ポテンショメータを用いたサーボモータの角度制御などを学習した。 ロボットアームの製作 このセッションからは、いよいよロボットアームを製作することになった。ロボットアームの設計はThingiverseで公開されている以下をベースとして用いた。 このプロジェクトを選定した理由は、構造がシンプルであることと、レーザーカッター用のDXF/PDFがすぐに加工可能な形で用意されていたことである。また、こちらで調達できる高トルクなサーボモータHD-1501MGにフィットする寸法であったこともある。メンテナンス不良によりiPICのレーザーカッターが不調だったため、もとFabLab Nairobiのファブマスター、いまはGearboxというメイカースペースを運営しているKamauを訪ね、事前にアクリル板のレーザー加工を行い、パーツは準備しておいた。 学生たちが早速ロボットアームの製作にとりかかると、設計の不備と材料の不足に気づき始めた。ネジの長さが足りない、穴の大きさが小さくてネジが入らない、スペースが小さく部品の干渉が起こる、などである。 筆者は本プロジェクトを実際に自分で組み立てたことがないため、このような問題は出るだろうとは予め想定はしていたものの、解決策の提案は参加者に任せようと思っていた。どうするのだろうかと観察していたところ、一人の学生がやってきて、穴が小さすぎるのだが大きくすることはできるか?という質問を投げかけてきた。Mr. Omondiと話すと、隣の工作室にあるボール盤で穴の追加工をやってみようということになった。所望の径のドリルビットがiPICになかったため、工学部ワークショップから取り寄せて使うことができた。 また、径の長いネジに関しても工学部ワークショップからの調達を図ったが、微妙に長さが足りなかったため、近隣のネジ屋に頼んで手に入れることができた。JKUATの近くにネジを購入できる場所がある、と知れたのは今後のためになる収穫であった。 本ロボットアームの設計は、アクリル板に空けた穴にボルト・ナットを通して組むものであったが、製作を通して、ボルトの頭が干渉する箇所がある、ピボット軸がない、などの問題が出てきた。このため、ホットボンド(グルーガン)をアクリル板の接着に使えないか、という議論になり試したところ、かなりの強度で接着することができたため、以後多用することとなった。 この日は16時が研修の終了時刻であったが、学生が延長を希望したため、結局18時過ぎまで作業することになった。遅くまで残っても帰ろうとする参加者はおらず、一生懸命取り組んでいたのが印象的であった。