気づきの多い一日
いつもより早く目覚める。
シャワーを浴びようと蛇口をひねると水がでない。水圧が下がってる、まじかぁ。こういうときはバケツに貯めておいた水を浴びるのである。アフリカにも慣れてきた。
普段通りエマニュエル先生の家で朝ごはんを食べているといきなり停電になる。すぐに電力が復帰することが多いのであまり気にしていなかったのだが、部屋に帰ってしばらくしても電気が来ない。ファブラボに向かうと電気がないまま生徒たちが作業をしている。
今日は電気来てないね、と言うとあと数分で来るよと言う。しかしすぐに笑いながら訂正し、数分で電気が来るかもしれないし、今日中には来ないかもしれないとのこと。普段の様子だとお昼には復旧するというが、果たして今日はどうなのだろう。
ちなみに最近けたたましくサイレンを鳴らしながらTTIの目の前の道路を過ぎ去っていく車列を目にする。みんなが釘付けになってるからなんだろうと思っていると、なんと首都のアクラへ向かう現金輸送車らしい。説明しづらいが、護衛の車をつけて爆音でサイレンを鳴らして走っていく現金輸送車の光景は何となく滑稽である。上島竜兵のお前ら絶対押すなよ!を思い出すからかなぁ。逆に目立たなくしたほうがいいんじゃないの?とも思えてくる。
さて、今日はこのプロジェクトにとって大きな進捗があるはずだ。今日は完成させた図面をもとに材料を集めに町へ繰り出す予定である。プリントアウトした図面を見ながら、寸法やボルトの数など細かいところをチェックしていく。部品の寸法は利用するフライホイールの形状に大きく影響を受けるので確定値ではないということを確認し、いよいよ出かけようという話になった。
そんななか、スティーブンがこう提案した。ショウヘイは店の中に入らない方がいい。自分たちだけで行けばタダでもらえるかもしれないスクラップも、外人が一人いるだけで商魂を出してくる可能性があるという。OK、了解、じゃあ影で見とくよと伝える。
ここで、アブーの様子が少し変なことにスティーブンが気づく。何か問題でも?とアブーに尋ねると、しばらく考えたあと「フライホイールにM2のボルトの穴は開かないんじゃないか?」と言う。ハッとして考えなおすと、確かに厚みのある鋼材にM2の穴を貫通しようとすると、剪断応力でドリルが破壊しそうだ。するとアブーが何やら思いついたように棚の上にある椅子の天板用の板を手にとった。そして言った一言が、「やっぱり木材を使うのはどうだろう?」
よさげな木材を発見した
そうか、ここで木材に戻るのか。さらに、「どうせなら動力軸のベアリングを支える支柱やその他の部材も全部木材で作ってしまえばいい。知り合いの会社のCNCルーターで切断できるから。」と言う。ガーナーでCNCルーターを使うとは!デジタルファブリケーションの潮流はすごいなぁと感慨深い瞬間でもあった。このCNCルーターの会社については別の投稿で述べることになると思う。
確かに今必要なのはプロトタイプを作ることであるし、さらにCNCを使えるなら木材を使ったほうが良い。それだと設計変更が必要になるね、と言われ、正直「また設計からかぁ」と思ったが仕方がない。再設計して図面を書きなおすことにする。
気を取り直して木材版プロトタイプの再設計を行う。毎日ライノで設計している今日この頃、図面を描く速度はかなり速くなってきた。クリアランスの減少、ベアリングの径の統一、支柱にベルト調整用のスロットを開ける、などアブーからのアドバイスを受けた再設計図面は、CNCルーターでの出力を考えて2D形式のdxfで書き出した。ちなみにエドワードはライノにとても興味を示しており、AutoCADよりライノの方がいいのかなぁと独り言を言っては上級生に「お前はAutoCADで良し」といった風に諌められている。
自分がPCで設計を行なっている後ろでは生徒たちがラボの大掃除の続きを行なっている。全部の棚をひっくり返した部屋は何ともすさまじい光景である。今日はエマニュエル先生もラボに張り付いて指示を飛ばしており、生徒たちは少し緊張した面持ちで真剣に作業に取り組んでいる。先生に厳しく指示を受けるというこの光景は大学では見られない、やはり高校なんだなぁという思いを新たにした。
14時を回った頃だったか、電気がやっと復旧した。こちらも設計が終わったので掃除の手伝いをしようとするが、今日の作業は備品の整理なのでいまいち要領を得ない。 手持ち無沙汰にしているとご飯食べてきなよといわれたので、昼食をとるために、またファンティ語の教材を得るべく本屋を目指して学校を出る。
今日はトロトロに乗って町に出て見ることにする。トロトロは乗合タクシーで、料金は30ペソ。タクシーの10分の1である。マーケットサークルに近づいたのでトロトロを降り、書店を探す。2点ほど回ったが、あまり良さ気な教材は得られず、結局ファンティ語の会話例文集を購入した。
食堂に入って遅い昼食をとりながら会話帳に目を通すと、なんか例文が変だ。
「268. John is not good at reading. – John mmbo noho mbodzen mo akenkan mu.」ジョンは読むのが下手
「270. Your hand writing is very poor. – Wo nsa ano akyerew nnye few.」君の文字は汚い
「283. I don’t like him at all. – Menpe n’asem koraa.」彼のことが大嫌い
「287. His behaviour really irks me. – Ne ndzeyee hye me ebufuw dodo.」彼の振る舞いは本当にいらつく
ネガティブな文ばっかりで使いどきがない。編集者の精神状態が原因なのだろうか。
TTIに戻ると、レーザーカッターを開けて修理している最中である。レーザーカッターを自分たちで修理するとはすごすぎる。途上国に高価な機材を提供してもメンテナンスできなくて放置されて宝の持ち腐れ、という言説は国際協力の世界で良く聞くが、これは全く次元が違う。高度で高価な機材が壊れたら自分たちで治すのだ。
「信号が不正だ」と言って回路とモーターのチェックをしている。このエンジニア精神を見習いたい。
そういえばエマニュエル先生が壊れたスキャナの箱を開けようとしているアブーに「直せるか?」と聞いていて吹き出しかけた。日本の高校の先生は生徒に学校の機材を修理しとけって言わないだろうなぁ。
帰る準備をして今日は早めに帰宅した。帰り道にトカゲとヘビがいた。毒は持ってないよね。