設計変更の末に

朝学校を通ると生徒たちが外に集まっている。朝礼をしており、校長先生が二階席からスピーチをされていた。

校長先生の朝礼

話している内容はよくわからなかったが生徒たちは時折盛り上がっている。二階席から話すというのが面白かった。

ラボに着くと打ち合わせだ。今日の目標はプーリーの購入と取り付けである。話し合った結果、以下の手順で進めることにした。まず発電機を売っている店で発電機の回転数を確認する。その後プーリーの店で手に入るプーリーのスペックを確認する(特に最小径と最大径が知りたい)。その後、手に入るプーリーの組み合わせが要求仕様(減速比、寸法)を満たすか現地で再計算し、OKであれば購入、という流れである。学校での待機組は、並行して学校の販売所からΦ12のシャフトを購入しておいてくれる運びとなった。

さて、再びアイザックとともにココンペへ。まずは町で発電機の店を訪れた。物色していると店のお兄さんにどれが欲しいんだ、と声をかけられる。rpmを確認したいんです、というと「?」という表情を浮かべている。仕様のラベルに書いてないだろうか、と調べていると、何を探しているんだ、と再び尋ねてくる。rpmが知りたいのでラベルを確認しているんです、と再び答えると、そんなの書いてないよと言う。何が欲しいのか、何をしたいのかちゃんと説明しろ、でなければこっちも答えられないというので、全く通じてないなと思いながら、図を書いて説明した。「発電機はエンジンとオルタネータ(交流発電機)の組み合わせからできている。自分たちは小型の機械の動力を探しており、つまり発電機のうちエンジンのみを用いようとしている。オルタネータは要らない。そして、エンジンの回転数がどうなっているのかを調べているんだ。」と説明すると、「何が欲しいのかわからない。発電機のサイズを教えろ」とのこと。これにはアイザックもしびれを切らしてこっちはrpmが知りたいんだよ、と同じ事を言う。rpmって何だ?と聞かれるので、アイザックが回転速度だよというと、そんなの知らないよと言う。店の前ですったもんだを繰り広げていると、奥に座っていた店主がこっちへ来いと呼ぶので奥へ入っていった。発電機の回転数が知りたいんですが、と再び同じ事を言うと、「知らない」と一蹴されてしまった。そうですか、と告げて店を後にする。

さてどうしよう、と方針についてアイザックと相談する。彼らはエンジニアではないのでエンジンの内部機構については全くの素人だ。ただ、おそらくあそこで売られている発電機の回転数は一定のはずで、1500rpmか3000rpmのどちらかであるはずだ。というのも交流発電機の周波数と回転数には次の関係が成り立つ。

f = (p * N)/120 (f: 周波数[Hz]、p: 磁極の数[個]、N: 回転数[rpm])

もし回転数が調節できればと思ったが、特に制御系がなかったので回転数は固定であると考えて間違いないはずだ。したがって、メインローターは無限速(減速比1:1)とし、ベルトコンベアは減速比100以上、プーリー構成は1段、2段、最終段の3段構えで行く事にする。

さて、次はプーリーの購入だ。ココンペに着くとまずΦ12のベアリングを4つ購入し、プーリーを売っている店へ向かった。プーリードライブをください、と言って品を出してもらうと、かなりゴツいプーリーが出てきた。アルミのものが手に入ると思ったか、素材は鉄か。

売られていたプーリーたち

ノギスを貸してもらって径を計る。測定の結果、最小径は約6cm、最大径は約13cmだった。これは大幅な誤算だ。一段おきに減速比を5程度とろうと思っていたのだが、手に入るプーリーだと最大で減速比は2程度しかとれないこととなる。手に入るプーリーを駆使して減速機構を設計すると、7段くらいプーリーが必要になる(2の7乗=128)。これは不可能だ。とりあえず議論のために持ち帰ろう、と小型プーリーを3個、大型プーリーを1こ購入した。全部で20セディ。

プーリーを購入したので次はプーリーベルトの店へ。長さを指定して購入する。長いプーリーベルトはいくらでも手に入りそうなので、一番短いものを2本購入した。一本3セディ。

購入したプーリーとプーリーベルト

ラボへ持ち帰って経過を報告すると、そうか、プーリーは手に入らなかったか、と皆で頭を抱える。プーリーが手に入らないことには減速ができない。アクリル板をレーザーで切って、重ねあわせてプーリーを作るとか?と提案するも、軸不可に耐えられないと却下される。AudioCraftのCNCが使えていれば自由にプーリーが設計できたのに、なんで大事なときに限って工作機械が壊れるんだ、とアブーがやるせない笑顔を浮かべる。ファブラボでは展示会のたびにレーザーカッターが壊れているそうだ。

回転数可変のエンジンが手に入れば減速比を抑えることもできるので、バイクのエンジンを使うのはどうだろうというと、バイクのエンジンを扱うのは複雑になるからよそう、と難色を示す。では小型の汎用エンジン、草刈機とか農薬散布とかのエンジンはどうだろうかというと、それだと十分な出力が得られるかどうか疑わしいね、となる。

全てはひとつのエンジンでローターとベルトコンベアを動かそうとしているのが悩みの種だ。ここは思い切ってベルトコンベアは手動にしないか?というと、アブーが、「ああ!」とアイディアを思いついたようだ。ガーナ人は何か思いついた時、納得した時などに”a-ha”とよく口にするが、アメリカ英語のそれとは違った独特の抑揚がある(発音はe-haeに近い)。そしてアブーは発電機のうちエンジンしか使わないって言ったけど、発電機も使おう、発電した電気でモーターを動かせばいいんだ、と言った。一同が「!」となる。手持ちのDCモーターは少し小さいので、何個か余っているステッピングモータを使うことにした。CNCを作っていた時のプログラムがあるので、駆動する準備はできている。こうするとプーリーの問題は解決だ。必要なプーリーはエンジンの動力軸とローターのドライブシャフトを結ぶ1組だけとなる。

さて、プーリーの問題は解決したが、依然として土台の問題は残っている。学校の販売所に行ったところ、販売所で手に入るシャフトの最小径はΦ14であり、Φ12が手に入らなかったのことである。Φ12のシャフトでないと、コンベアベルトをスライドさせるブッシング(内径12強)と整合しない。ただ、これについてはシャフトを旋盤で削って外径を落とす方法があるので、リカバリは効きそうだ。コンベアベルトの支持に用いる軸は長さがたったの60mmなので、ワブリングの心配なく旋盤を使うことができるだろう。しかし、さらに大きな問題があることに気づいた。プーリーの内径を考慮していなかったことだ。

ローターの駆動に用いる小さい方のプーリーの内径のセットはΦ15とΦ17である。これでは現在取り付けてあるΦ12のシャフトにははまらない。ローターのシャフトをΦ15あるいはΦ17に変更するという作戦もあるが、ドライブシャフトを変更するとベアリングの再購入が必要になるので勿体無く、さらにアルミニウムの支持板と板に再び穴あけをしないといけないので時間もかかる。

そこでアブーがこう提案する。問題なのはドライブシャフトにつけるプーリーの内径が大きいことだ。そこでプーリーの穴を溶接して全部塞いでしまえばいい。そのあとで中心をうまく定めてΦ12の穴を開け直すのだ、と。溶接した場所の中心に穴を開けるのはかなり困難な作業に思えるが、これがうまくいけば構成を変える必要がなくなるので非常に助かる。

一応の方向性が決まったので、加工の相談をしに機械科のメンサ先生のもとへ向かう。 しかし、溶接の案は加工が困難だと却下されてしまった。

この際、ちょっとした事件が起こる。アブーとスティーブンと機械科を訪れた時、機械科の先生らしき人がかなり逆上した様子で突っかかってきたことだ。前にも書いたが、販売所での購入にはエマニュエル先生のサインと校長先生の許可が必要だ。現地語でしゃべっていたので全く理解できなかったが、時折交じる英語から推測するに、とりあえず、定められた手続きを履行していない、ということに怒っているようだ。推測ではあるが、中間管理職を飛び越えて直接社長に直談判したところ、中間管理職が何様だと怒った、という状況だと思われる。非常に面倒くさい。

販売所の前でアブーと二人でスティーブンを待っているときにアブーが、「研究は大変だ」と漏らす。思わず自分も、「うん、こっちはシャフトが欲しいだけなのに」と応答した。

さて、現状で自分たちに残された手段は、プーリーの内径にはまるΦ15のシャフトを購入することである。これだとベアリングの入れ替えと再加工必要になるが止むを得ない。Φ15を探して販売所へ向かうが、この販売所というのは言ってしまえばただの倉庫で、ほとんどラベリングされていない材料が無造作に置いてある場所だ。したがって寸法は自分たちで測らなければならず、一苦労である。ノギスで測って確かめるもΦ15がない。Φ14とΦ16はあるのに、Φ15だけないのだ。

これは困った。アブーとスティーブンと対策を話し合う。頭を抱えていたところ、またもやアブーが「あ、問題が解決した。」と言った。どうするの?と聞くと、Φ14を買うんだ、という。プーリーの内径はΦ15なので、Φ14のシャフトをそこへ溶接するのだ。先ほど溶接は難しい、とメンサ先生に跳ね除けられたが、今回はΦ15の内径のプーリーにΦ14の外径のシャフトの溶接なので、クリアランスは0.5mmしかない。早速メンサ先生にこの案を話すと、それなら大丈夫だとOKをもらう。こうなると、ドライブシャフトがΦ14になるので、ベアリングの入れ替えが必要になる。アイザックに頼んで先ほど購入したΦ12のベアリングのサイズを交換してもらうことにした。

これで問題は解決したと思って、お昼の休憩をとっているとアイザックが帰ってきた。アイザックいわく、Φ15とΦ16はあったが、Φ14だけなかったそうだ。何たることだ。この材料の不整合は本当に偶然なのだろうかとすら思えてくる。

こうなるとお手上げかと思ったところ、現在のΦ12を使い続けることをアブーが提案した。Φ12にブッシングを挟んで外径を拡張し、それにΦ15の内径のプーリーを溶接するのだ。そのままでは隙間が大きすぎて溶接できなかったΦ12のシャフトも、ブッシングで隙間を埋めてやることで、溶接は可能になる。まさに起死回生といったところだ。

さて、仕様は決まったので、明日の加工に向けてΦ14のシャフトを切断することにする。

シャフトを切断する 

これにて本日の作業はひとまず終了だ。

さて、明日以降の動きとして、磁石の収集が依然として残っている。これについて、少し無謀な考えかもしれないけど、と言って提案を行った。アクラにある電子廃棄物の集積地、通商ソドムとゴモラにはおそらく大量のHDDが捨てられているはずだ。アクラに赴いて、そこから収集するのはどうだろうかと。却下されると思ったが、アブーはそれはいい考えだ、もっと早くそうすべきだったと言ってくれた。もしアクラに行くとすると、エマニュエル先生の許可がいるから相談してみるとのこと。

磁石について確認すると、ステッピングモータの動作確認をした。動くことは確認したが、マイコンから供給できる電流では足りないので、追加でMOSFETが必要になることがわかった。

 

 

 

14. September 2012
Categories: FabLab | Tags: , , | Leave a comment

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