CNC、それは無限の可能性

今朝は5時に起きるも、睡眠が足りなかったので眠くなり二度寝をすることにした。すると8時過ぎにダラーリが家に来た。携帯電話のクレジットが切れており、エマニュエル先生からの電話に出られなかったことを悟る。2セディおよび1セディのチャージで電話が利用できるのは6日間のみのようだ。

ラボに行く廊下に置かれている掲示板をふと見るとファブラボの記事が載っていた。Energy Education at the Ghana FabLabとある。村に太陽電池パネルを取り付けに行った時の記事のようだ。

FabLabガーナの特集記事

さて、今日の作業はまず昨日切削を終えたステッピングモータの基板の穴あけだ。そして穴あけが終わるとハンダ付けを行う。

ステッピングモータのドライバ回路のハンダ付け

同一の9Vのスイッチング電源からマイコンとステッピングモータに供給するように仕様変更したので、三端子レギュレータにヒートシンクが必要になった。そのためすこし不恰好になったが仕方がない。

回路の表面

回路の制作を済ませると、アブーはAudioCraftのCNCで加工を行うための図面をAutoCADで書き始めた。昨日の夜に寸法を測って帰り、家で作業していたときにAutoCADがクラッシュしてデータが全部消えたため、図面の作成をやり直している。アブーいわく、自分はいつもWindowsの自動保存に頼っているが、今回は全く復元されなかったんだよとのことだ。

その傍ら、自分はアラーム用のマトリックスキーボードを自作した。

自作マトリックスキーボード

キーボード自作といっても、スイッチを押して通電する場所の抵抗値を変えるだけというシンプルな仕組みである。ちなみにアラームについてはこんなフィードバックをもらった。アブーとスティーブンにアラーム用のベルが欲しい、自転車屋で売ってるかなと尋ねると、ベルじゃなくてサイレンが欲しいんだよ、と言われた。自分は各教室に1つずつアラームのベルを取り付けるつもりでいたのだが、学校側が要求しているのは学校の中央にスピーカーがあって、大音量で鳴らして始業終業を知らせるものだそうだ。何かサイレンというと刑務所みたいな感じがして気が引けたので(刑務所のことは知らないが)、もっと心地良い音のほうがいいんじゃない?と言ってみたが、音がでかいことが最優先のようである。所変わればニーズが変わる、したがってここは要求されたものを作ることにしよう。

今日は祝日とあって、ラボに子供たちが入ってきた。彼らはTTIの先生の家の子供のようだ。彼らは会うたびに「もしもし」と言ってくるので、個人的にもしもしキッズと呼んでいる。協力隊の方に日本語を教えてもらったのだろうが、もしもしだけしか覚えていないのはよほど印象が強い響きなのだろう。彼らの頭をなでるとシャリシャリして気持ちがいい。

ラボにパソコンを使いに来たもしもしキッズたち

ファブラボには彼ら以外にも近くの子供達がやってきて、パソコンを使ったりレゴブロックで遊んだりしている。子供たちは可愛いのだが、たまに手に負えないこともある。ラボのメンバーが作業している最中にマイケルジャクソンのPVを爆音で流し始めて静かにしなさいと言われていたこともあった。ある子は日本に変えるときにMac book airを置いていくことを約束しろと迫ってきたし、特に用もないのに家の扉を叩いてくることもある。いたずらで鍵穴に藁をねじ込まれたこともあった。こないだはボールを自分の家の屋根に乗っけてしまい、外で大騒ぎしていたので登って取ってあげたことも。

さて、昼過ぎになるとアブーがCADの図面を完成させたのでAudioCraftに向かう。TTIからAudioCraftまではタクシーで4セディほどの距離だ。AudioCraftに着くと、社長は今中国に出張中とのことで、息子のフランセスが出てきた。フランセスは会社を手伝っていることもあり、この年にしては聡明な子だ。英語もうまく話すし、iPadでFacebookを使いこなすのは以前書いたとおりだ。工房の中には製作中のスピーカーの筐体が所狭しと置かれている。

製作中のスピーカー

そしてスピンドルが治った中国製のCNCルーター、SYHYとご対面である。

中国製のCNC。西アフリカの希望というのは言いすぎか

CNCの近くに行くと、アブーは早速CNCとスピンドルコントローラーとの配線を始めた。電源を入れるとうまくスピンドルが回った。ボリュームを回すと徐々に速度が上がっていく。高周波側にシフトしていくインバータの磁励音が心地よい。このCNCでは11000rpmほどでるようだ。これは木工として、またエンドミルの大きさ的にも十分な速度だろう。

さて、AutoCADで作成したdxfデータからArtCAM2008を使ってツールパスを生成する。そしてそのツールパスをSYHYが解釈できるNCコードへと専用のソフトウェアを使って変換する。NCコードが生成できたら、USBケーブルでCNCのコントローラへとデータを転送(ダウンロード)すれば準備は完了だ。WindowsXPでArtCAMが起動しないというトラブルはあったが、アブーのWindows7で動かすことで事なきを得た。

いざ、テスト加工を行なってみると切削面がガタガタだ。速度が早すぎるのでは、と思っていると、アブーがスピンドルの回転が刃の切削方向に対して逆になっていることに気づいた。モーター逆転をさせようとスピンドルコントローラをいじるも、うまく逆転しない。逆転の機能がついているはずなんだけど、おかしいなあとしばらく悩む。

そしてCNCコントローラをいじっていると、ステッピングモータの走査方向を逆転させる設定があることに気づいた。X方向だけ変えればツールパスがミラーリングされるからうまくいくんじゃないか、と言って切削を試してみるが結果は変わらない。スピンドルの回転方向が大事なのだ。したがってスピンドルのカバーを開けて配線をやり直すことにする。

スピンドルの配線を修正

配線を入れ替えるとモーターが逆転するようになった。切削を試すと、成功である。これでも十分速い速度に思えるが、今取り付けている5mmのビットではなく8mmを使えばさらに速度を上げることも可能とのこと。

さて、CNCが動いたのでようやくローターを加工する。当たり前だが加工が速い、速い。

CNC稼働中

ものの数分でローターを加工することが出来た。同じ物を 2枚作って貼り合わせる。

新たなローターが完成

2週間かかって加工したローターの初号機であるが、CNCを使えば小一時間で制作が可能である。手作業による加工では寸法のマーキング、加工精度、工房の開館時間、材料の入手などが積もり積もって時間がかかったが、CNCではCADでのデザインができればすぐにものを作り出すことができる。手に入る材料に制限があるこういう場所だからこそ、ひとつの材料から色々な形状を作り出すことができるCNCは有効に働くのではないかと思った。大規模な製造業が存在しないこの国、更に言うと西アフリカでは、このような安価で個人向けのCNCの需要は高まってくるだろうと思われる。現にアブーもそのように話していた。

さて、加工はCNCがやってくれるのでフランセスとおしゃべりをしていた。名前を漢字で書いてみて、というので翔平と書く。翔の字は画数が多い字だが、これはどういう構造をしているのかと聞かれたので、羊と羽という2つの部分からなっていて、羊はsheep、羽はwingを意味するんだよと教える。すると羊という字のどこにsheepの要素があるんだと聞かれるので狼狽する。(今思い出せば羊は象形文字だった)羽という漢字は左側を小さく、右側を少し大きめに書くんだというと、「なぜ ?」 と聞かれるも、答えようがない。確かになんでだろう?と自分も頭が混乱してきた。漢字の成り立ちを調べてみるのも面白そうだ。

他にも日本語と中国語では同じ漢字を使っていることが多いので、読み方はわからないけど意味は予想がつくんだよという話をした。中国語も少しは知ってると言うと、フランセスもなんと中国語を勉強しているそうだ。很好とか公共汽車とかの単語が出てくる。5枚入りのCDで勉強してるけど、まだ1枚目をやってるところだとのこと。お父さんも中国出張に言っていることから、ビジネスの場面で使っていくの目標もあるのだろうと思った。学ぶ意欲を持っているのは素晴らしいことである。

さて、底板の加工が終わったので後片付けをすることに。フランセスがローターに記念のサインをしてくれた。パパというのはフランセスのニックネームである。

フランセスのサイン入り部品

ラボに戻ると時間はもう6時を回ったところだ。今日は停電はないらしいので、アラームの作業を続けたいところ。アブーはお祈りに行ったので、一人で作業をしていると、隣に座っていたクリスチャンという子が、USBドライブが使えないんだけど、と相談してきた。USBドライブは認識しているのだが、中に入っているはずのデータが表示されないという。自分のMacで開いても出てこないので、どうしようと思っていると前にUbuntuで開いたときは出てきたという。そこでUbuntuに切り替えて試すと、データが表示された。一件落着、と思っていると突然、楽器は何か弾ける? と尋ねてきた。ギターを弾くよと答えると、それはすごい、自分はトランペットを吹くんだと教えてくれる。教会の音楽隊で吹いているらしく、音楽隊の演奏を見たことある?と聞いてくるので、こないだ教会で見たよと言うと、どこの教会?と聞いてくる。Vodafoneの近くの場所だよ、自分は仏教徒なので普段は教会には行かないけど、エマニュエル先生の家族と一緒に行ったんだというと、仏教とキリスト教の違いって何?と質問してくる。一言で言うのは難しいが、キリスト教におけるイエス=神は、仏教には存在しないんだと伝える。神がいないのか?と驚いて聞き返されたので、神らしき存在はいることはいるが、イスラム教やキリスト教のように帰依の対象ではないと言うも、なかなかわかってもらえない様子だ。この話をしている時のクリスチャンの顔があまりに真剣なので、下手なことを言うと怒り出すんじゃないかと思い、内心はびくびくしていた。この子はかなり信仰に篤い子らしい。まず、名前がクリスチャンである。キリスト教に改宗しようと思ったことはないのか?と聞かれたので苦笑いしながら、そうだねえ、改宗したら教会に毎週行かないといけないし、生活スタイルが変わるから考えたことはないなあと言うと、辺りに微妙な空気が流れた。

とはいえ、彼も中学校の社会科で他の宗教について勉強したことはあるそうで、仏教の話は非常に興味深かったとのこと。自分の知らないことを知るのは楽しい、教えてくれてありがとうと言ってきた。ふう、それは良かったと思い作業に戻ろうとすると、ここからクリスチャンの怒涛の質問ラッシュが始まることになる。聞かれた質問は例えば、「USBドライブはどうやって作るのか、なぜガーナでは生産されていないのか」、「ガーナは未だ発展途上国であるが、日本や中国はなぜ経済発展したのか」、「液晶モニターの中にはインクが入っているのか?そもそもどうやって表示されているのか」などである。日本や中国はなぜ経済発展したのか、という疑問が純粋に出てくるのは面白いなあ、と思った。液晶モニターについても、電場をかけて分子の整列方向を変えているんだよと答えたが、詳しい内部の仕組みついては自分も知らない。液晶って自作できるのかな。

他に興味深かった質問として、

「自動車のエンジンの設計法を勉強できるソフトウェアはないか」

という質問があった。クリスチャンは自動車科の所属だが、自動車科で習うのは車の整備でありエンジンの設計は習わないとのこと。自分でもエンジンを作ってみたいと思っているが、どうやって勉強したらいいかわからないそうだ。自分は大学の授業でエンジンを設計したことはあるが、ソフトウェアはわからないなあと答える。ニザーンとかのソフトウェアがあるかもしれないから検索してみてと言われたので、そういうソフトがあるのかなと思ってニザーンってどういうつづり?と尋ねると、N・I・S・S・A・Nと答える。それ日産や!と思い、日産はEラーニングの教材は作ってないと思うというと、じゃあこの会社はどうやって車を設計してるの?ソフトウェアを使わないの?と聞かれる。もちろんCADを使うだろうが、エンジンの設計法というのはそれ以前の問題である。結局彼の要求である、どうやって車のエンジンを設計法を学べばよいか、という質問には答えることはできなかったが、簡易的なエンジンのキットを作るのは結構面白いかもしれない、今後の一つの課題にしようと心に決めたのであった。CNCと自作エンジン、これが今日の収穫である。
さて、クリスチャンはずっと質問を投げかけてくる。そのうちキリスト教の話を始めたが、もはやテープレコーダーのように解説を続けている。こっちは朝から働いて疲れているので、彼の話を聞く体力は残っていない。ただ、真剣に解説している彼を無碍にもできないので、聞いたふりを続けていた。彼の話が一段落したところで今がチャンス、と思い、今日はもう帰ろう、と伝えてラボを後にした。

 

23. September 2012
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