技官研修3日目
本実習では、Autodesk Inventorを用いて2種類のシミュレーションを行う方法を解説し、実習を行った。この実習科目についても、iPICスタッフから是非研修を行ってほしいという要請があった。
iPICスタッフからの聞き取り調査によれば、彼らが用いたシミュレーションという言葉は、3DCAD上で設計したモデルのアニメーション動作のことを意味していた。これを学びたい背景は、製品設計において、仕様や動作を説明する際に活用したいということであった。したがって、Autodesk Inventorという機械設計で用いる3Dモデリングソフトウェアを利用し、シミュレーションの実習を行った。
Autodesk Inventorを選定した理由は以下である。
- 教育版の無償ライセンスが存在する
- アセンブリ拘束条件に対するアニメーションが作成可能である
- 構造解析(FEA)が可能である
研修に先んじて調査したところ、JKUATでは機械科にSolidWorksのライセンスが導入されているとのことであった。しかしiPICにはSolidWorksのライセンスは導入されていなかったため、教育用無償版ライセンスが利用可能なAutodesk Inventorを研修に採用した。また、今回の研修に必要な機能である、アセンブリ拘束条件に対するアニメーション機能と、構造シミュレーション機能(FEA)が可能である点も重要であった。
補足として、同様の条件を満たすAutodesk Fusion360の利用も検討したが、参加者の多くはAutodesk Inventorの経験は多少あるものの、Autodesk Fusion 360は利用したことが無いという者が大多数だったため、今回はAutodesk Inventorを利用することにした。
Autodesk Inventorを用いた運動学シミュレーション実習
本実習では、平歯車の噛合動作のアニメーションの作成を行った。本テーマを選定した理由は、機械設計で最も頻出する、回転拘束に対してアニメーションを設定するという項目を解説したかったためである。なぜ回転拘束に対するアニメーションが重要であるかというと、機械設計ではモータやエンジンなどの回転駆動軸が、クランクシャフトやリンク機構を介して機械の全体動作を生み出すことが多いためである。
平歯車の設計はAutodesk Inventorに内蔵されるSpur Gears Component Generatorを利用して行った。そして大小2つの平歯車に対して、拘束とギア比を適切に設定することで、歯車の回転シミュレーションが行えることを確認した。また、最終的に作成したアニメーションを動画ファイル(.wmv形式)に書き出す方法も学んだ。
Autodesk Inventorを用いた力学シミュレーション実習
Autodesk Inventorを用いて行うことのできるシミュレーションには運動学シミュレーションと、力学シミュレーション(構造解析)がある。iPICスタッフからの要望は前者のみであったが、後者も機械設計では重要なスキルであり、念の為に受講者に受講希望があるか多数決を取ったところ、ほぼ全員が(非常に前のめりな様子で)学習したいと挙手した。このため、当初のスケジュールに追加して研修を行った。
実際に行ったのは、有限要素法(FEM)による片持梁の応力・変位解析である。まず簡単に片持梁の材料力学理論を解説すると(片方を固定端、もう一方を自由端、自由端の末端に集中荷重)、参加者の多くが、理論は学んだことがある、という反応を示した。
実習ではまずAutodesk Inventorを起動し、片持梁のモデリングを行った。その後Stress Analysisメニューから新規Studyを生成し、境界条件設定、荷重設定とメッシュ生成を行い、有限要素計算を実行した。von Mises応力および変位のヒートマップ表示を確認し、さらにアニメーションの生成方法を学んだ。そして運動学シミュレーションと同様に、動画の書き出し方法を習得した。
筆者の印象であるが、FEMによる応力解析には参加者が特に興味を示していた。
電子回路基板への電子部品の実装実習(はんだ付け)
この日の午後はLPKF S63基板加工機を用いて作成した、DCモータの速度制御基板に対して、電子部品を実装するはんだ付けの実習を行った。筆者には驚きであったが、参加者の多くがはんだ付けは初めてであるようだった[。
実装した部品は、整流用ダイオード、積層セラミックコンデンサ、電気抵抗、およびFETである。事前に各部品に対する注意点の説明も行った(ダイオードの極性、電気抵抗のカラーコード等)。また、はんだ付けの代表的な不良パターンについても解説した(はんだ過少による接触不良、いもはんだ、ブリッジ)。なかでも、いもはんだの説明の際に、日本ではこの接触不良をその形状からPotato solderと呼ぶと解説したところ、受講者からは大きな笑いが起こった。はんだ付けの実習の際には、そっちのはTomato solderだ、いやAvocado solderだ、と独自の形式を生み出して冗談を飛ばしていた。
はんだ付けの実習が終わった後は、デジタルマルチメーターを利用した基板の導通チェックの方法について解説し、実際に受講者に対して基板検査を行ってもらった。かなりうまく部品を実装できている者も見られたが、全てのグループが何らかの箇所で導通不良を起こしていた。これは、はんだ付けを楽にするための、はんだフラックスが現地で調達できなかったこと[と、切削の深さが甘く、端子を切り離せていない加工不良の基板が存在したことも理由である。いずれにせよ、継続的にはんだ付けの練習をしていくことが必要である。
[1] 実はペンタイプのはんだフラックスがケニアでも調達できることを後で知った。
技官研修2日目
Autodesk EAGLEを用いた電子回路の設計実習
本実習では、Autodesk EAGLE(以下EAGLE)という電子回路CADを用いて、電子回路(PCB)の設計を行った。電子回路の設計は、1) 回路図(Schematic)作成、2) 回路パターン(Artwork)作成、3) 加工用ガーバデータ作成、という3つのプロセスに分かれている。EAGLEはこれらの3つの工程を全てカバーするソフトウェアであり、教育版の無償ライセンスが提供されている。
回路CADの選定にあたっては、以下の観点をもとにした。
- 筆者が使い慣れていること
- 教育版の無償ライセンスがあること
- JKUATで導入しているLPKF社の基板加工機に対応していること
- 回路CADのなかでも比較的シンプルな操作体系であること
まず1に関して、JKUATではProteusを多く利用していると聞いたが、筆者は電子回路CADとしてEAGLEとAltium Designerを普段の業務に利用しており、Proteusを利用した経験がなかった。また2 について、EAGLEには無償ライセンスがあり、学生や教員の自習に活用してもらうことを考えると、積極的に使いたい理由であった。EAGLEの設計データをLPKF S63で使うためのガーバデータ(RS-274X形式)に変換するためのCAM定義ファイルがサードパーティから提供されていたことも好都合であった。最後に、これは電気系の専門の参加者から感想として聞いたのだが、ProteusよりもEAGLEの方がシンプルで使いやすいとのことであった。初心者の教育的な観点からは、はじめから高度で複雑な機能を搭載したソフトウェアよりは、操作がシンプルで全体像を見渡せるものを最初に学んだほうが、のちのち応用が効くと感じているため、EAGLEを選んだのは正解であったと言える。
以下に、演習に用いるために用意した基板の設計を示す。
実際に実習時には、EAGLEの機能解説に想定より時間を要したため、DCモータの速度制御という趣旨は残したまま回路を簡易化し、以下の回路設計を行った。
今回はAdafruitの提供するEAGLEライブラリを利用したため、ライブラリの自作方法は解説しなかった。それもあって、参加者は特に詰まるところなく設計を完了させていた。ライブラリの自作方法を研修に含めると、かなり時間を要することになると思われる。
従来から分かりづらかったEAGLEのCAM Processorの操作インターフェースはEAGLE8.6.0から変更されており、多少改善が見られたが、依然としてCAM定義ファイルを開くメニューへの導線がわかりづらく、参加者から一番質問が出たのはこの箇所であった。
最初に準備した設計ではオートルータ(自動配線)の利用方法も解説する予定であったが、変更後の設計があまりに簡素であることもあり、オートルータの利用方法は解説しなかった。講習が終わった後の時間に、数人に対して補習としてオートルータの使い方を説明した。
LPKF S63基板加工機を用いた電子回路基板の加工実習
本実習ではLPKF社のS63基板加工機を用いて、実際に設計した基板の銅板への切削加工を行った。筆者は日本ではMITS社の基板加工機を愛用しており、LPKF社の加工機は初めてであったが、メカトロニクス学科のテクノロジストの助けもあって、操作方法をすぐに習得することができた。LPKFに搭載されていて、MITSに無い機能として、加工ツールのZ方向の自動キャリブレーション機能がある。大変便利な機能であり、製作者に優しい製品設計であると感動した。
S63基板加工機ではCircuit Proというソフトウェアを利用して、通常の基板加工機と同様にガーバデータ(RS-274X形式)を読み込み、ツールパスを生成し、加工機へデータを送信する。今回は簡単のために片面基板を設計したが、カメラを利用した位置合わせによって容易に両面基板を製作することも可能である。
参加者が一番知りたかったのは、複数の加工情報をどのように区別して加工機に送信するのか、という点であった。EAGLEではCAM ProcessorとLPKF S63用の定義ファイルを用いて、はんだ面データ(.sol拡張子)、Excellon形式ドリルデータ(.drd拡張子)、輪郭線情報(.outline拡張子)を吐き出すことができる。これらの各々をCircuit Proで読み込むことで、自動ツール交換装置(ATC)に対応したツールパスを生成できるということを、参加者は学んだ。
技官研修1日目
研修初日はハンズオンの研修(実際に手を動かす実習)はなく、講師および参加者の簡単な自己紹介と、グループワークを行った。
ディスカッションを軸とした研修を最初に導入した理由は、iPICスタッフのDr. KihatoおよびC/PのMr. Omondiのリクエストによる。Kihato氏からのリクエストは、「技術の指導だけでなく、日本の支援という利点を活かし、ものづくりの心をいかにAfrican innovationに活用するかを議論して欲しい」というものであった。Kihato氏とさらなる議論を行ったところ、「もの」ではなく「こと」に焦点を当てることの必要性、という視点も新たに明らかになった。Kihato氏は、日本の経済発展というのは、そのような「こと」に焦点を当てたことも背景にあるのではないか、という。確かに日本の製造業を発展させた背景には、一見製造それ自体と無関係に思える部分(整理や整頓と言った、製造に取り組む姿勢や、「車ではなく、ひとをつくる」というトヨタの思想など)も関係があるかもしれないと納得した。結局彼の真意を推し量れば、単一の技術シーズを基軸にイノベーションを捉えるのではなく、このケニアという土地が抱える問題を解決することに焦点をおき、そもそもどのようなことが求められているのか、広い視点に立って議論を行い、そこで技術が果たせる役割は何であるのか、包括的に考えることの必要性をスタッフにも知ってほしいということであったと考えられる。このアドバイスを基に、グループディスカッションのテーマを設定し、議論を行った。
本グループディスカッションでは、アフリカンイノベーションに関する議論を行った。まず参加者に問うたのは、既存のアフリカンイノベーションの事例はどのようなものであるか、ということである。例として、以下のようなものが挙げられた。
カテゴリ | イノベーション事例(受講者の表記による) |
農業 | 3 in 1 plant mill, Hay baler, Wind-mill pump, Money maker pump, Beans thresher, Hydraulic pump, Maize sheller, Motorbike driven water pump, Use of drones for spraying farms, Stirling machine, Oil press (Avocado, macadamia) |
エネルギー | Energy saving jikos, Diesel cooker jikos, Plastic pyrolisis machine |
ファイナンス | M-Pesa, olx |
メンテナンス | Phone repairing, Bead breaking machine, Car fire remover |
食品加工 | Meat mincer, Chips chipper |
教育 | New curriculum development, Nature corner |
セキュリティ | Mobile phone home security, M.P. card immobilizer, Mice traps, Scare crows |
輸送 | Tri-cycled truck, motorized bicycles |
健康 | Honey for medicine, Traditional preservation of dead bodies, Plant mill for crushing herbs |
経済持続性 | Hand woven basket, Beads ornaments |
インフラ | Interlocking block |
彼らが思い描くイノベーション事例の多くは、主に農業分野に多くみられることがわかった。これに関して、JKUATにおける過去の製作事例(イノベーションプロダクトと彼らは呼ぶ)を挙げる受講者も多かった。
引き続いて、これらの従来のアフリカンイノベーションと思われる事例に、先端技術を用いることで新しいイノベーションを生み出すことはできないだろうか、という議論を行った。ここで、参加者にインスピレーションを与える目的で、筆者は隣国ルワンダにおけるUAV(無人航空機)を用いた血液輸送サービス(Zipline社)の事例を紹介した。参加者の多くはZiplineの事例を知らず、これは逆に筆者にとっては驚きであった。なぜならZiplineの事例はリバース・イノベーション(途上国で開発された製品が先進国に逆輸入される)の事例として日本でも盛んに喧伝されており、筆者がルワンダにおいて参加する別件のJICAプロジェクトにおいても、しばしば耳にしていたからである。他にもアイディアを考える上での材料として、スマートフォン、AI(人工知能)、VR/AR(仮想現実・拡張現実)、自動運転、暗号通貨・ブロックチェーンなどの話題を提供した。
この議論においては、以下のような結果を得た。
先端技術を用いることで可能なアフリカンイノベーションの例
– ロボット、ドローン、スマートフォンを用いた家の監視システム
– GPS(GSMの間違いか?)を用いたドアのセキュリティシステム
– ドローンを用いた農園への空中散布
– 自動車へのカーナビの導入
この議論において特徴的だったのは、家や会社のセキュリティを強化したいというニーズであった。ケニアではそんなに家のセキュリティが問題なのか、と尋ねると、そうだと言う。家の周りには有刺鉄線や警備員を配置しているが、センサーで管理できたらコスト的にも安くて済むとのことだ。最近ではアル・シャバブが活動しているからなおさらだ、という意見も出てきたのは驚きであった。
このディスカッションは、この時点ではアイスブレイク的な位置付けで導入したが、別の意図として、彼らがどのようなものを生み出してみたいと思っているのか、率直な意見を聞いてみたかったということもある。これについては、実習が終わってから再度アンケートを取る予定なので、新たな技術を身に着けたことで、思考にどのような変化が観察されるかが楽しみである。
技官向けデジタルファブリケーション研修
2018年2月5日〜2月9日までの5日間、ジョモ・ケニヤッタ農工大学(JKUAT)にて、JICA短期専門家としてデジタルファブリケーションの研修を行った。デジタルファブリケーションとは、コンピュータ上での設計データを基に工作機械を操作し、製品製造を行う技術の総称である。対象となる参加者はJKUATの技術系職員であり、定員15名として募集を行った。
今回の研修の主要な目的は、従来の工学系製造設備(旋盤、フライス盤など)は熟知しているものの、デジタルファブリケーション機器という新しい機材には習熟していないJKUATの技術スタッフを対象として、iPIC導入機材の講習を行うことである。さらに機材の使い方だけではなく、3D-CADや電子回路CADといった設計ソフトウェアの使い方、工作機械の指令制御を行うCAMソフトウェアの使い方、および製品の開発に必要な組み込みプログラミングまで、製品開発・製造に必要な知識を一通り指導することもねらいとする。
同時に、iPICが現状抱えている課題を明らかにし、今後の改善に向けた提言をiPICの運営職員に行うことも目的とする。
DRコンゴ訪問時の雑感
- 徒歩外出禁止
- 一人でタクシー禁止
- 乗り合いバス禁止
- バイクタクシー禁止
- 家には警備会社をつける
- 家には鉄条網をつける
- 家の壁は3m以上にする
- 人が道で死んでる 死にかけの人がいる
- 右ハンドルが主流
- 芋虫を食べた
- 野生動物を食べる
- ひたすら賄賂を要求される 空港の綺麗さとの対比
- 物価が高すぎる ホテルが高い
- キンシャサには人口2000万人もいて、外国人の姿を見ない
- 空港で会った外国人、特に中国人たちはどこにいるのか?何の仕事をしているのか?
- 空港で見かけるのは、商社マン風の出で立ちの中国人や小奇麗なインド人
- コンゴ人自体はフレンドリー
- ディアスポラが多い状況はルワンダと似ている フランス語と英語を流暢に操る あとどんだけ金持ってんだ、って感じ
- イミグレはOKそうだけど、検疫が腐ってる イエローカードを変えたほうがいいかもしれない
- Hotel Renaissance Jumeauxっていうホテルの名前が変な名前だって言われた
- キンシャサはアートの街
- ブリコラージュ ・チャンスは大いにある
- 戦略的要衝