設計ミーティング
今日の朝はエマニュエル先生のお家で朝ごはんをご馳走になった。
今日は土曜日なので先生はTTIのポロシャツにUMBROのカーゴパンツというラフな出で立ち。
音楽好きなガーナ人の家だけあって、スピーカーシステムが半端じゃない。この宿舎でも夜中じゅうウーハーの聞いた音楽が流れている。昨日の夜は停電していたので静かでいい夜だった。
さて、まず朝の作業として、ミーティングの議論のたたき台とするための図を描く。
システム概念図
これを元にスティーブン先生とアブー、エドワード、アイザックたちと話をする。
ローターの軸力伝達部には自動車のフライホイールを流用する方向で合意した。次にローターの磁石支持部に用いる素材について話をすると、意見が割れた。自分は軽くて安価な木材を利用するつもりでいたが、鉄などの金属を利用したほうがいいという。その理由として、
- 木材はすぐに劣化する。修繕などのランニングコストを考えると金属で作るべき
- 慣性モーメントが大きいほうが、安定回転時における外乱による軸への逆負荷を抑えることができる(始動トルクは大きくなるが)
- 鉄が磁化することで無駄なクリアランスの増大を防ぐことができ、磁界の作用する有効距離をかせげる(強磁性体の金属を使った場合)
特に耐久性を考慮すると、ここアフリカで金属の利用を彼らが推してくるのは納得できたので、金属を採用することにした。ただしアルミニウムは高価なので使わないことにした。
次に材料の調達であるが、スティーブンはまずは設計図を完成させることだ先だという。金属の調達はメカニカルショップというところで行うそうだが、図面を持って行くと色々と相談に乗ってもらえるとのこと。自分の書いた部品図はきちんと寸法を出していないラフ図面だったので、これを詳細化することにする。
あとは大量の磁石。ジャンクPCのHDDから磁石を取り出そうという話になったが、果たしてこれだけの量が手に入るのか。疑問に思っているとスティーブンがエドワードに、
「エドワード、宿題。プロジェクトで使うのでと言ってHDDを一つでも多く集めてきなさい」
おお、それは無茶ぶりじゃないかと思ったけどエドワードは特に無理そうな顔をしていない。何が起こるかわからないこのアフリカ、もしかしたらジャンクの量もレベルが違うのか?これには今後のさらなる報告を期待されたい。
月曜には機械科の学生も交えて切削加工や溶接の相談を行おうということになった。(ファブラボは主に電子科の学生が使っている。今思ったけど、そうするとICTラボは情報科の学生の溜まり場なのだろうか)
ミーティングの際にアブーは心強い。ローターの偏心による揺動運動をどう抑えるか、という話になった時はこんな治具を作ればいい、と図を書き始めた。
図を書いてスティーブンに説明するアブー
図面に取り掛かろうとすると、ダグラスがMODELA MDX-20によるPCB基板の切削加工法を教えてくれという。通常はMITのcam.pyを使って切削しているそうだが、自分のいつものやり方を教える。<参考>ファブラボでプリント基板を作る
ただ、D-Sub⇔USBの変換ケーブルとして純正のME-US3ではなく別のケーブルを使っているため、Rolandの提供するドライバを認識しない。Prolificのドライバの設定でFIFOバッファの値を変更してみたが改善しない。
結局cam.pyを使うべく、WindowsにPythonをインストールした。ガーナの回線は遅い&従量課金なのでモジュールのインストールにも一苦労である。
夕方になり、 図面が出来上がる頃には夜の9時を回っていた。
図面の一部
アブーも一心不乱にPCで作業をしている。
そろそろ帰ろうと思い、話しかけた。
「AutoCADで何描いてるの?」
「家の図面だよ」
「!?」
お兄さんが家を建てるそうで、設計図面を頼まれて書いているそうだ。
もちろんアブーが建てるわけではないが、これを元に会社と議論をすると話が早いでしょ、とのこと。
しかもお昼過ぎから書き始めたのにもうできている。
この短時間で家の3D図面を起こすとは末恐ろしい子である。
AVRのプログラミングを教えるの巻
朝8時にエマニュエル先生が部屋に迎えに来てくれた。
今日は快晴。早速ファブラボへと移動する。
アレックス先生が家庭菜園の手入れをしていた。プランテーンを育てているそうだ。鶏も飼っているとのこと。そういえば明け方鳴き声を聞いた。
教員宿舎で自給自足できるところが懐が深い
朝ごはんにとククという飲み物と、クスという揚げ物、あと煎ったナッツを食べた。
ククは、なんというか雷おこしを煮たようなあったかい飲み物。ほんのり生姜の香りがしていた。
結構ボリュームがある
筆者は雷おこしが苦手だが、バングラデシュでの経験以来、出された食べ物は吐いても食べるのがモットーなので完食した。
さて、部屋にはダグラスくんしかいない。一人で横断幕を作り終えると、携帯電話を修理したりその他の作業にいそしんでいる。
暇なので彼に話しかける。
なにかいま作ってるの?と聞くと、部屋の騒音を測定してLEDの色を変化させる回路を作っているらしい。
何の用途に使うのか聞いてみると、これはポリテクと一緒にやっているプロジェクトで作っているのだと言っていた。
ロータリースイッチのスイッチングの機構でいま悩んでいるという。マイコンでやればすぐなのに、と思ってAVRとかPICとかのマイコンは使ってないの?と聞くと、AVRはあるといい、見せてくれた。
棚から取り出してくれた
見せてくれたのはAVRライタであるSTK500。ただし使った形跡はないようだ。
書き込みの方法が知りたいようなので、自分の持ってきたAVR ISP mkIIでできるよと伝えると見せてくれという。
ここでスーツケースの出番である。
まずはソフトウェアでいうHello, worldにあたるLEDの点滅を試してみる。
ATTiny2313を何個か持ってきたと思ってたらATmega88P-20PUしかなくて焦ったが、データシートをダウンロードして、あとコードを書き換えて対応した。
書き込みを行う。ここはガーナ。テスターに書かれた秋月電子通商の文字がまぶしい。
チップへの書き込みに成功してLEDが光りだすと、無安定マルチバイブレータだ、とダグラスくん。
さすがアナログ回路には慣れている。
ここで若い先生が部屋に入ってきた。自分のプロジェクトのサポートをしてくれるとのことで有難い。彼とプロジェクトの概要をブリーフィングしていると、他の生徒も集まってきた。
持ってきたプロトタイプの動画を見せて、磁石がどこで手に入りそうか、 あと筺体を金属で作るか木材を作るかなどの製作に関する議論ができたのは良かった。部材は動力軸とのジョイント部の強度を考えて、金属で作ることになりそうだ。
思ったより話がダイレクトに進むので、もう少し詳細な資料、具体的にはラフ図面とプロジェクト遂行スケジュールを作っておこう。
昼ごはんを食べ終わると、ダグラスくんがSTK500の使い方を教えてくれという。このライタはいじったことないけど、なんとかなるだろうと思いマニュアルに目を通す。GCCのコンパイルは通るけど、WinAVRが認識しないんだよなぁと四苦八苦していると、AVR Studio4にはAVR Progという書き込みソフトが入っていることを知った。いざ書き込む前にSTK500のファームウェアのアップデートを終え、無事にATmega8515Lに書き込むことができた。
書き込みに成功!後ろの黄色いLEDが光っている
このときのみんなの大喜びの顔が忘れられないなぁ。こっちもすごいテンション上がったわ。しかもキットだからLEDがとても綺麗に光る。
これでステッピングモータのドライバが書ける、と喜ぶアブー。マイコンってすごいよなぁ、いちいちロジックゲートから設計しなくてもいいんだよなぁ、と嬉しそう。いや、アナログ回路を設計できる君たちのほうがすごいと思うが。こっちはマイコン使えないとお手上げだから。
このSTK500もMITからの寄贈だそうだが、これまで誰も使って来なかったと見える。パーツ棚を見るとATtiny26が転がっているが、これも誰も使ってこなかったのだろう。
宝の持ち腐れだったAVRライタの使い方を教えただけでもガーナに来た甲斐がある気がしたのであった。
あと特筆すべきが、ファブラボガーナには近くの小学生が遊びに来ているのだけど、彼が説明を一言も聞き漏らすまいとメモを取っていたこと。あの真剣な眼差しはこっちも本気で教えなければという気にさせた。
全力でメモを取る少年。日本の小学生は全力で彼を見習うべし
DDRレジスタの設定とか、ちょっと難しいところは何回も聞きなおしてきてくれて、理解したみんなで教えてあげた。あとで話したところだと彼はロボットとかラジコン飛行機とかのリモート制御システムが作りたいみたい。こんな熱心な生徒には色々教えてあげたいなぁと、初めて先生という職業の充実感を味わった気がしました。
マイコンで色々作りたいぜ!って感じでワクワクしてるみんなを見て、マイコン使ってこんなん作ったことあるんだけどって、前に自作した装置の動画を見せてみた。
案の定、すげぇぇって笑ってくれて良かったです。仕組みはどうなってるの?と聞かれたのでノートに書いて説明した。
もはや先生になった気分
マイコンのファームウェアをArduinoで書いてるので、そこはちょっと意味不明だったかもしれない。いずれにせよ、俺たちもこんなん作ってやるぜ、ゲートを遠隔操作で開けるんだって意気込んでくれたのは非常に良かったです。
晩御飯はアブーにTTIの目の前のChop barに連れて行ってもらった。ティラピアの入ったスープにライスを食べた。
スープは唐辛子が利いていて美味しい
店を出てぶらぶらと自分のプロジェクトについて話をする。アブーがAutoCADでシステム構成図面を作ってくれるそうなので、こっちもRhinocerosで部品図を設計して行こうと思う。アブーは昨日Fab8のプレゼンでAM1:30までファブラボに残留していたらしいのに、よく頑張る人です。なんてハードワーカーなんだ。
アフリカでも使うツールはあんまり日本と変わらないけど、家の前から後ろを振り返ると完全に真っ暗闇なのでアフリカにいることを思い出すのでした。
ファブラボガーナに到着
今日はついにファブラボガーナに向かう。
到着するとエマニュエル先生が出迎えてくれた。
前回の訪問時と同様、まず校長室に伺って校長先生に挨拶を。校長先生が変わっていて少し驚いた。
校長室を出ようとすると、事務のおばさんっぽい人に引き止められる。
名前は?誕生日いつ?と聞かれたので、10月の、と答えようとすると
「違う違う、What day?(何曜日)」と言われた。
ここガーナでは生まれた曜日によって名前をつける習慣があるらしい(金曜日生まれだとコフィー 、みたいな)
覚えてませんと答えると、じゃあ今日は木曜日だからと言って名前をくれた。
すいません、しかしそのいただいた名前をもう忘れてしまいました。今度また教えてもらおう。
今回は先方の好意で学校の宿舎に滞在することになっている。
部屋を片付けるのでしばらく待っておいてくれと言われたので、ファブラボで待つことにする。
作業中の学生たち
心持ち前回の訪問時より学生が少ない気がする。夏休みなのだろうか?
横断幕を作っている。スポーツ大会があるらしい
小学生くらいの子供が喋りかけてきておもしろい。しかもこの子はいくつか日本語を知っている。
トシコが教えてくれたんだ、という。トシコさんは2年前に協力隊で赴任していた女性である。
日本語を教えろというので、何が知りたい?と聞くと”I am going to~”は何て言うのか、と聞かれる。
「わたしはがっこうへいきます」と教えると、笑いながら「長すぎる。もっとsimplifyしたフレーズを頼む」と答える。そんな調子で時間を潰していた。
そうこうしていると、前回仲良くなったアブーが部屋に入ってきた。彼は今日ニュージーランドのウェリントンで開催されているFab8(世界ファブラボ会議)で遠隔のプレゼンをする予定らしく、資料作りに勤しんでいた。彼とプロジェクトについて話したいのだが、忙しそうなのでやめておいた。
それにしても時間がかかるなぁと思ってふらっと学校の外に出てみた。
このタコラディという町はマーケットの存在する中心部から2〜3km外れるともう田舎の街並みという感じである。幹線道路に沿って食堂やら木材店やら電器店が軒を並べており、ぶらぶら散歩をしてみた。
チェーンソーの看板や、発電機の看板がある。洗車をしてくれるガレージもあった。
ファブラボに帰ると部屋の準備ができたようである。冷蔵庫こそないが、電気も通っていて水もでるので生きていくには全く問題ない。
宿舎のある丘から学校を見下ろす
しばらく町の中心部から離れた場所で暮らすので、物資の買いだめをするべく街の中心部、夜のマーケットへ。
向かったのはタコラディで一番大きいと思われるYou 84というスーパー。シャンプーを買ったらレジのお姉さんに「アンタ(男なのに)シャンプー使うの?」って笑われた。アフリカ人の男はシャンプー使わないのか。
家に帰る途中、学校から宿舎までのあぜ道を歩いていると、ここは本当に真っ暗なことに気づく。空を見ると星が綺麗に出ている。足元に気をつけながら歩いていると、地面がところどころ光っていることに気づく。
「ホタルだ」
上を見上げた時の夜空の星々と、地面を照らすホタルの明かりのコントラストがとても綺麗だった。
これでいよいよ明日からファブラボでの活動を開始できる。
スーツケース
今回持ってきたスーツケースの中身について。
一見なんのへんてつもないスーツケース
実はプロトタイピングに使えそうな部品を詰め込んでいる。
上に置いてあるのは作業服
中をすべて出すとこのような感じになっている。
マコラマーケット散策ータコラディへ
2日目、いよいよ目的地のタコラディへ向かう。
その前に確かめておきたかった、現地の電子部品などの流通事情を調べるべくマコラマーケットへ。
秋葉原の秋月電子のような電子パーツショップを探すべく、トランジスタはないか?と聞くと、案内されたのがこちらのお店。
店の外観
中に入ると、電子部品が棚に並べられている。
かなり品揃えがよさそう
特に今購入したいものはないのだが、品揃えをチェックしたいのでトランジスタを買ってみる。